第71話 大物政治家と対談してみた④
笑い終わった僕はスタッフの顔を見回す。
誰もが凍り付いていた。
実に良いリアクションである。
「今回の企画内容をまとめると"大物政治家と対談してみた"という感じですかね。暴露要素を強調してもいいのですが、せっかくなので平和的にお話ししましょう。ねえ、常里さん」
「貴様、さっきの話は本当か!? この私に【正直者】のスキル石だと! ふざけるなよ、くそ! 一体何を考えているんだッ! あれは現代社会に見合わない能力で――」
うるさいので口にガムテープを貼り直す。
本題に入るまで黙ってもらおうと思う。
『うわあ』
『悲惨だな……』
『正直者はさすがに同情する』
『取得者に生活保護が出るからね』
『わざとスキルを取って受給資格を満たす人もいるんだって』
『でも絶対に割に合わないよな……』
リスナーは僕の行動にドン引きしていた。
常里さんに与えられたスキル石の【正直者】は社会的に破滅する効果と言われている。
普段のコミュニケーションすら満足にできなくなるため、絶対に取得しないように注意喚起されるほどだ。
僕はくぐもった喚き声を洩らす常里さんを一瞥する。
「先ほど常里さんが警察が来るとおっしゃっていましたが、このスタジオはボブが守っています。たとえ核ミサイルが撃ち込まれても配信は続けられますのでご安心ください」
『さらっとすごい情報が』
『警察どころか核を想定してる……?』
『結局ボブは何者だよ』
『高レベル帯はマジで人外ばかり』
僕は常里さんのガムテープを剥がし、彼の目をじっと見た。
そして期待を込めて問いかける。
「ではさっそく質問をしていきます。常里さん、あなたは抗議団体を使って僕を暗殺しようとしましたか?」
「知らん! あいつらが勝手にやったことだ! 報告は来たが私の指示ではない!」
常里さんは吐血しない。
つまり本当のことを言ったのだ。
僕は納得して次の質問に移る。
「なるほど。では僕の暗殺を止めなかったのはなぜでしょう。色々と都合が良かったからですか?」
「……私は忙しいのだ。支援しているグループも多い。些細な連絡にはいちいち構っていられんのだよ」
早口になった常里さんは唐突に血を噴いた。
本人が一番驚いている。
苦痛もなく、いきなりこうなってしまうのがスキルの特徴だった。
僕は大げさに嘆息して金槌を取り出す。
「あーあ、嘘をつきましたね。では罰を受けてもらいます」
「お、おい。待て! これは誤解で」
見苦しく弁明する常里さんの手に金槌を叩き付けた。
手の甲が陥没し、スタジオ内に叫び声が木霊する。
僕は金鎚を回しながら忠告した。
「嘘には苦痛が伴いますのでご注意を」
『えげつない……』
『これが続くのか』
『ワクワクしてきた!』