第69話 大物政治家と対談してみた②
コメント欄が怒涛の勢いで流れていく。
その熱狂を横目に、僕はカメラ目線で穏やかに話す。
「今回は生放送での特別番組です。リアルタイムの反応を参考にしますので、どしどしコメントをお願いします」
いつもと違う形式だが、ライブ感は大切にしたい。
未だ気を失っている常里さんを眺めていると、コメント欄に投げ銭の形で質問が投稿された。
『なんでテレビを使って企画をするの?』
『配信だけでいいよね』
『金でも貰ったのかなぁ』
『全部ドッキリだったりして』
『ありえそう』
そこそこの数のアンチも反応している。
まあ、こういうのも人気者の性だ。
いちいち腹を立ててはきりがないし、むしろ利用する気概でやるべきだろう。
僕は特に表情を変えず、身振り手振りを加えて答える。
「突然の展開で驚かれている方も多いですね。こうしてスタジオをお借りしたのには理由がありまして……」
そこで言葉を切ってカメラ裏を確認する。
ADの出すカンペには「次の話題へ!」やら「経緯はスルーで!」と書かれていた。
プロデューサーらしき男も手でバツ印を作っている。
だから僕は、とびきりの笑顔で語る。
「ここのテレビ局は少し前に取材の打診をくれたんですよ。ただ、報酬について尋ねたら音信不通になりましてね。今回、そのことを思い出して訪問してみました。いやぁ、アポなしだったのに丁重な対応をしてくださり、とても感謝ですよ」
『また滅茶苦茶やってるよ……』
『常里を捕まえたままテレビ局に来たの!?』
『絶対に嫌がらせだ……』
『連絡を無視されてムカついたんだろうな』
『巻き込まれたテレビ局に同情』
案の定、リスナー達は察していた。
彼らの推測は正しい。
こんな形でテレビ局をジャックしたのはちょっとした意趣返しだった。
いつも安全圏で報道しているのだから、たまにはこういうスリルがあってもいいはずだ。
スタッフ達は苦々しい雰囲気に包まれている。
これでクレームや炎上の発生が確定したからだ。
日頃から嫌われやすい立場なのもあり、余計に胃が痛いのだろう。
ちなみにこのスタジオはダンジョンの上に建てられており、各種スキルやアイテムの補正は問題なく発揮される。
運動系や検証系の番組なんかでダンジョンの恩恵を利用している場面を観たことがある。
魔物やアイテムが発掘されないだけで、補正が働く特殊空間は不定期に見つかるのだ。
地価が跳ね上がるものの、用途次第でいくらでも儲けることができる。
スタッフ達や警備員の中にはそれなりの実力者もいるが、僕に逆らう気配は感じられない。
直前の配信で大殺戮を披露したことで、正攻法ではまず敵わないと理解しているのであった。




