第68話 大物政治家と対談してみた①
視界の先でたくさんのスタッフが慌ただしく動き回る。
カメラマンは緊張した様子でこちらを撮っていた。
おそらく責任者であろう数人は、遠巻きに眺めながら話し合っている。
誰もが僕という存在を迷惑がっていた。
ほぼ全員の予定が大幅に狂い、明け方から滅茶苦茶な番組の準備をしている。
元凶が僕でなかったら苦情の嵐になっていると思う。
その一方で彼らは爆発的な視聴率を期待している。
今から始まる出来事が、それを叶えることを確信していた。
スタジオ内は異様な熱気と緊迫感に包まれ、即席とは思えない手際の良さで舞台が整っていく。
リラックスして座っているのは僕だけだろう。
(早く始まらないかな)
僕は微笑みながら対面の椅子を見る。
そこには政治家の常里さんがいた。
気絶した常里さんは椅子に拘束されて口をガムテープで塞がれている。
紋章付きの首輪は、彼の魔術スキルを封じるためのものだった。
別に対処は可能だが、ここからの段取りを邪魔されたくない。
スタッフが大声で本番開始のカウントダウンをする。
その途端、スタジオ内が一気に静まり返り、固唾を呑んで僕と常里さんを見守る。
カウントがゼロになったのを見計らい、僕はいつもの調子で話し始めた。
「みなさん、こんにちは。配信者の佐藤キツネです。数時間ぶりの配信ですが、元気にやっていこうと思います。ちなみに今回はテレビ局の協力で民放をお借りしました。僕のチャンネルでも同時配信してますので、好きな方でご視聴ください」
僕は手持ちのスマホを確認する。
視聴者数は瞬時に三万人を突破し、その後もペースを上げて増えていく。
常里さんの屋敷から出たところで配信を切り、続きが気になっていた者達が待機していたのだろう。
『テレビ!?!?』
『どんどん大規模になってる』
『まさかヤラセ?』
『準備が良すぎるよね』
『佐藤はヤラセなんてしない』
『誰か常里に触れてやれよ』
リスナーの驚きにも慣れてきた。
彼らの素直なリアクションは面白く、さらなる反応を見たいと思ってしまう。
この辺りは配信者としてのスタンスが馴染んできた証拠かもしれない。
今回の配信内容にも自信があった。
これまで以上に刺激的な展開になること間違いなしだ。
上手くやれば国内外に大きな影響を与えられる。
佐藤キツネのネームバリューは天井知らずの跳ね上がりを見せるだろう。