第67話 暗殺中継をしてみた⑨
僕は屋敷に向かって歩く。
室内に踏み込んだ途端、襲いかかってきたのは数人の忍者だった。
忍者は短刀ですれ違いざまに切りつけてくる。
だから僕はカウンターで拳をねじ込み、或いは肘や膝の打撃を浴びせた。
自らのスピードも乗っていたことで、忍者はミンチになって四散する。
『忍者ーーーーーー!!!』
『バラバラだ』
『このひとでなし!』
室内を探索していると、あちこちから忍者が攻撃を仕掛けてくる。
僕は肩や腹に刺さった短刀を引き抜き、それらを使って迎え撃った。
必殺級のダメージを不死身の特性で耐えつつ、忍者の急所を的確に破壊していく。
おそらくは政治家の隠し戦力なのだろう。
屋外にいた者達の数倍は強い。
日常的にダンジョンに潜り、実戦経験を積みながらレベル上げをしているのだと思われる。
もっとも、そんな忍者でも僕には敵わない。
いくら強くても人間だから死ぬのだ。
何も難しい話ではなかった。
忍者の死体を踏みながら、僕は屋敷内を歩き回る。
『忍者系のスキルって強かったよな?』
『うん。なぜか優遇されてるはずだけど……』
『佐藤の前では雑魚キャラか』
屋敷内を端まで調べ終えて、残されたのは地下に続く分厚い鉄扉だけとなった。
なんとなくこの向こうに気配が隠れているのが分かる。
僕は忍者の死体から拾った短刀で鉄扉を切り裂き、地下への階段を下りる。
真っ暗な空間は何重もの結界が張り巡らされていた。
たぶん触れたらダメージを与えてくるタイプだ。
別に僕ならゴリ押しで通過できるが、スマホが壊れそうなのでやめておく。
一旦、上階に戻り、かき集めた魔術武器を投げつけて破壊した。
『あーあ……』
『魔術武器の無駄遣い』
『もったいない!!』
『あれだけでいくらするんだろ……』
『考えたら負け』
僕はスマホのライト機能で地下を照らす。
端にスーツ姿の男がひっそりと佇んでいた。
白髪混じりの髪を持つその男は件の政治家だった。
ネットで検索した写真よりも幾分か老けているが間違いない。
僕は穏やかな口調で話しかける。
「どうも、こんにちはー」
「貴様、何の用だッ!」
「いやいや。あなたが刺客を送ったんじゃないですか。迷惑だから文句を言いに来たんですよ」
こちらを警戒する政治家は、古木のねじれた杖を持っていた。
持ち手の上に宝玉がはめ込まれており、どう見てもダンジョン産なのが分かる。
政治家は憎悪を露わに笑う。
「目立ちたがりのクズめ。貴様は既に私の術式内に入っている……!」
床がいきなり発光した。
大量の魔法陣が明滅し、力の渦を作っている。
罠だ。
僕がここに来るのを見越して用意していたらしい。
発動まで待つのも面倒だったので、僕は床に魔術武器を叩き付けた。
その一撃が床全体を粉砕して魔法陣の罠を消し飛ばす。
行き場を失った魔力が七色に弾けて天井を焦がした。
政治家はぽかんとした顔で固まっている。
「は…………?」
「悪あがきは済みましたかね。政治家の常里さん」
微笑む僕は常里さんの首を軽く叩き、その意識を遮断した。