第66話 暗殺中継をしてみた⑧
満月が浮かぶ夜空の下で、僕はゆっくりと息を吐いた。
全身が血みどろであちこち欠損している。
右足は膝から先が無くなっており、左腕はぐちゃぐちゃに潰れて腐っていた。
腹からは内臓がはみ出て、折れた骨が皮膚を突き破っている。
たぶん脳もこぼれていそうだ。
辛うじて無事なのは、配信のために庇っていた右手くらいだろう。
周囲一帯は死体で埋め尽くされていた。
すべて僕を待ち構えていた防衛戦力である。
数がとても多く、一度に大量に殺せる武器もなかったので時間がかかってしまった。
「ふう、ちょっと疲れましたかね」
『すげえ……』
『あれを皆殺しにできるんだ』
『よく死なないね』
『バケモノだ』
リスナーが驚愕している。
夢中になって気付かなかったが、大量の投げ銭が送られていた。
視聴者数やチャンネル登録数も凄まじい勢いで増えている。
頑張った甲斐があったようだ。
その反響に満足していると、リスナーから質問が来た。
『なんでそんなに強いの? 一人で勝てるわけないのに』
「簡単な話です。こういう時に適したスキルがあるんですよ」
そう言って僕は今回使ったスキルの説明をする。
ベースのパワーアップは【怪力B】や【身体強化B】だ。
とりあえずフィジカルを底上げしないと始まらない。
相手より速く動き、人体を一撃で破壊する力があれば、数の差があっても戦うことはできる。
そこに【逆境上等C】や【一騎当千A】や【単独無双A】といったスキルを組み合わせると、さっきみたいな蹂躙が可能になる。
いずれも限定的な状況でしか使えない代わりに効果は強力だ。
さらに【鮮血の鎧A】と【手負いの獣B】を加えると、受けたダメージすら利用できる。
僕はそう簡単に死なないため、ギリギリを見極めながら調整できるという寸法であった。
戦闘系スキルのランクを一時的に上昇させる【限界超越B】と、殺した相手から僅かに経験値を奪う【蟲毒の王C】も使い勝手が良い。
劇的な変化を発揮するわけではないが、トータルで見れば無視できない強化をもたらしてくれる。
そして極め付けは【殺人鬼S】だろう。
これのおかげで常に人間への攻撃力が上がり、高倍率の経験値ボーナスも付いてくる。
Sランクだから効果は優秀で、発動条件も簡単すぎる。
シンプルで難しいことを考える必要もない。
僕の所持スキルの中でも特にお気に入りだった。
「他にもスキルはありますが、今のラインナップでだいたい納得していただけますかね」
『は…………?』
『スキル多すぎない?』
『Aランク多いしSもあったよ』
『これでもまだ本気じゃないとか……』
『佐藤キツネは何者だ?』
大半のコメントが困惑している。
色々と初公開の情報が多かったので混乱してしまったようだ。
これでもっと注目が高まってくれることを祈ろう。