第64話 暗殺中継をしてみた⑥
鼻歌を奏でながらスポーツカーを運転する。
法定速度を無視した猛スピードだ。
途中、何度も事故を起こしそうになりながらも、大きなトラブルもなく移動を続ける。
そうして辿り着いたのは、畑だらけの田舎だった。
砂利道の道路の先には、古風な外観の屋敷がそびえ立っている。
屋敷の周囲は黒スーツの集団と警察が集まっていた。
政治家が用意した戦力だろう。
おそらくあの位置は既にダンジョン内と判定されており、各種補正が発生しているに違いない。
対する僕はまだ常人のスペックだった。
向こうの戦力は屋敷を中心に五十メートルほどに密集していた。
つまりその辺りまでがダンジョンの範囲なのだ。
ダンジョンに入るまでは、とても勝負にならないシチュエーションである。
『絶望的な戦力差』
『思ったより向こうが強い』
『用意周到だな……』
『降参した方がよくない?』
黒スーツと警察が一斉射撃を始めた。
僕がダンジョンに踏み込む前に仕留めるつもりらしい。
実に堅実な作戦であった。
僕は頭を下げながらスポーツカーを全速力で走らせる。
数え切れない銃撃と爆発を左右に避けながらひたすら突進した。
僅かにでもスピードを緩めれば即死する。
それを理解しているからこそ躊躇なく突貫するのだ。
『いやいや無茶だろ!!!!』
『死ぬからやめろ』
『佐藤キツネ、オワタ』
『自殺行為で草』
『死なないで』
屋敷からタンクトップ姿の大男が出てきた。
大男は両腕でトラックを持ち上げている。
それを雄叫びと共に投げつけてきた。
回転するトラックが僕の乗るスポーツカーに激突した。
シートベルトを着けていなかった僕はたまらず宙を舞う。
今ので全身の骨が折れてしまった。
吹っ飛んだ僕に向かってさらに銃撃が叩き込まれる。
反撃の余力などあるはずもなく、僕はあっけなく全身を引き裂かれた。
そうして意識が途切れる寸前、肉体に変化が生じる。
無尽蔵の力が湧き上がってくる。
細胞がどんどん回復していく感覚もあった。
吹っ飛んだ僕はそのままダンジョンの領域内に侵入したのだ。
片手にはスマホがあり、運よく壊れずに配信を続けている。
眼下では黒スーツと警察が「しまった」という顔をしていた。
落下する僕は血だらけの顔で笑う。
ようやく思う存分に殺戮ができそうだ。