第63話 暗殺中継をしてみた⑤
僕は車線を切り替えて高速道路を下りる。
追っ手は来ていない。
三十分くらい前から唐突にいなくなったのだ。
それまでが尋常じゃないペースで襲撃されていたので、上からの指示で中断したのだと思う。
まあ、被害が膨らむばかりで割に合わせないと考えたのだろう。
現在の僕は赤いスポーツカーに乗っている。
元は白かったのだが、諸事情でこんな色になったのだ。
全体から漂う血と臓物の臭いは、どれだけ換気しても誤魔化せない。
僕自身の負傷も酷い。
ハンドルを握る両手は何本か指が欠けており、左の手のひらには直径数センチの穴が開いていた。
脇腹にはナイフが刺さっているし、足も痺れて感覚が薄い。
打撲やら骨折は多すぎていちいち数えていられないほどだった。
応急処置はしているものの、充分だとは言えない状態である。
『ケガ大丈夫?』
『出血量がまずいよな』
『よく痛がらないね』
『さすがに死にそう……』
リスナーのコメントを見た僕はいつもの配信スマイルを作った。
そして指の足りない手をひらひらと振ってみせる。
「心配してくださりありがとうございます。僕は元気ですよー。これくらいなら平気です」
『これくらい……??』
『何言ってんだ』
『平気の基準がイカれてる』
『誰か佐藤に常識を教えてこい』
リスナーとの掛け合いをしながら運転を続ける。
やがて気になるコメントが目に留まった。
『そういえば例の政治家さんがSNSで投稿してたよ』
『佐藤を挑発してる』
『自宅で待ってるって』
『佐藤キツネを訴えるらしいよ』
『どんどん面白くなってきた』
件の政治家はダンジョンの領域内に建てた自宅に籠っているらしい。
そこを大量の部下や傭兵、警察に守らせているそうだ。
住所の知られた場所から逃げ出さないのは、そこが最も安全と考えているためだろう。
ようするに自信があるわけである。
僕はハンドルをコツコツと叩きながら微笑した。
「いやー、そんなに歓迎されたら行くしかないですねえ。派手にやろうじゃないですか」
『楽しそう』
『この状況でも絶望しないのか』
『つよつよメンタル』
『佐藤なら勝てる気がする』
『おもいきりぶっ○してくれ!!!!!』
リスナーも非常に乗り気だ。
人気絶頂の配信者として、期待を裏切らない展開にしなければ。