第62話 暗殺中継をしてみた④
運転中、リスナーから気になるタレコミがあった。
僕はコメント欄のスクロールを止めて確認する。
『抗議団体のバックにいる人間を特定した』
続くコメントを読んだところ、抗議団体の後ろ盾は有名な政治家らしい。
この情報に他のリスナー達が食い付く。
『知ってる人だ』
『テレビで見たことあるぞ』
『選挙にも出てたね』
『大物が釣れたな』
デマの可能性もあるが、コメント欄には根拠となるサイトも掲載されていた。
他のリスナーが精査しても嘘が出てこないことから、どうやら真実らしい。
僕は笑顔で頭を下げる。
「情報提供ありがとうございます。行き先を変更して件の政治家さんに会いに行こうと思います」
その時、後ろからサイレンが聞こえてきた。
サイドミラーで確かめると、一台のパトカーが接近してくるところだった。
「そこのトラック止まりなさい」
襲撃者ではなく警察だった。
メガホンを持った警察がしきりに忠告を繰り返す。
「あー、見つかっちゃいましたね」
『そりゃそうだろうな』
『通報されたか』
『空気を読めない警察』
『この状況で止まれるかよ!!!』
警察の対処を考えていると、さらに後方から霊柩車が現れた。
窓から上半身を出した男が何かを肩に担いで構えている。
それは旧式のロケットランチャーだった。
発射されたロケット弾は、狙いがそれてガードレールに命中する。
突然の爆発に警察は動揺していた。
「な、なんだっ!?」
ひょっとすると、駆け付けた警察は僕の状況を知らないのだろうか。
だから止まるように言っているのかもしれない。
襲撃者がいると分かっていれば、もっと別の動きをすると思う。
やがて二発目のロケット弾が放たれた。
それはパトカーに炸裂し、爆炎を噴出させて吹き飛ばす。
中にいた警察は即死だろう。
このまま三発目を撃たれると面倒なので、僕は手榴弾を投げ落とす。
手榴弾は霊柩車の真下で炸裂した。
突き上げられた霊柩車は、黒煙を噴きながら減速する。
エンジン系統が破損したのだ。
霊柩車はそれ以上は走行できずに停止し、渋滞を起こしていた。
僕はハンドルを握り直してカメラ目線になる。
「さて、気を取り直して政治家に会いに行きましょう。夜も遅いですが、最後まで観てくださいねー」
下手に長引かせると二次災害が広まってしまう。
被害者の立場と言えど、僕にも非難が寄せられるのは必至だ。
やはり短期決戦で終わらせるべきだろう。