第59話 暗殺中継をしてみた①
運転席のちょうどいい場所にスマホを固定して、僕は配信を開始した。
夜間の暗い道路を走行しながら、ハンドルにを握って微笑みかける。
「えー、緊急配信です。ちゃんと見えてますかね?」
『見えてるよー』
『どうした?』
『なんかヤバそうな感じ』
『ダンジョンの中じゃないね』
さっそくリスナーが異常事態に気付いている。
僕はバックミラーを確認しつつ、今の状況について端的に説明した。
「現在、前回の大会に出てきた抗議団体から命を狙われてまして、撮れ高がありそうなので配信を始めました」
『は?』
『マジで???』
『配信してる場合じゃないだろ』
『警察行きなよ』
『通報した方がいいかな』
『どうせヤラセ』
後方からバイクが猛スピードで接近してくる。
フルフェイス型のヘルメットのせいで顔は分からず、手には鉄パイプを持っていた。
その鉄パイプが僕の乗る車に叩きつけられた。
後部の窓が割れて甲高い音を立てる。
僕は片手でスマホを掴み、すぐそばまで迫るバイカーを撮った。
なんとかピントを合わせて車が殴られる光景を画面に捉える。
『うわっ』
『本当じゃん』
『ヤラセって言ったやつ出て来いよ』
『普通に危なすぎる』
僕はスマホを元の位置に戻し、代わりに拳銃を掴んだ。
窓の外に腕を出してバイカーに向けて発砲する。
弾を受けたバイカーはひっくり返り、凄まじい音を立ててアスファルトを転がった。
そのまま電信柱に激突して動かなくなる。
運転に戻った僕は助手席を一瞥する。
そこには大量の武器が積み上げられていた。
ダッシュボードや後部座席にも同様に武器を用意してある。
今みたいに絶えず襲撃があるため、いくら準備しても足りないくらいだった。
「件の抗議団体はダンジョン根絶を目指しています。ダンジョンは人類にとって不健全であり、唾棄すべき存在と主張しているのです。そんなものを利用して儲ける僕みたいなライバーは憎悪の筆頭なんでしょう」
あの大会以降、怪しい気配はあった。
しかし、こんなに強引なやり方で来るとは思わなかった。
僕が配信で色々と証拠を残すとは考えなかったのだろうか。
何にしても危険な集団には違いない。
いくらなんでも滅茶苦茶すぎる。
或いはこれだけ派手に暴れても問題ないほど強い後ろ盾があるのかもしれない。
配信的には話題の種となるのでありがたい限りであった。