第56話 ダンジョン大会を開催してみた⑪
誰かが死んで、また別の誰かがクリアする。
その様をリスナーは一喜一憂しながら視聴し、場合によってはチャンネル登録したりスーパーチャットを飛ばしたりする。
白熱する大会は概ね想定通りに進んでいった。
やがて最後の一人であるボブがスタート地点へと赴く。
肉体より三回りほど大きい鎧に身を包むボブは、巨大チェーンソーと盾付きガトリングガンを携えている。
いずれも彼の店で取り扱う商品だろう。
呆れるほど強力な装備だが、あの重量で難なく動けるボブの身体能力も並外れている。
ボブは両手の武器を掲げて吼える。
「うおおおおおおおおおお! やってやるぜえ!」
『頑張れよボブ!!』
『ラスト一人!』
『重装備すぎて草』
『そもそもなんでボブが参加してるんだよ』
『賞品ってボブが売ってたやつだもんな』
ボブが堂々と走り出した。
鈍重かと思いきや恐ろしいスピードだ。
おそらく加速系の装備も使っているのだろう。
全力疾走で突き進むボブはガトリングガンを乱射する。
高速で放たれる弾丸が作動前の罠を粉砕し、距離が近いものはチェーンソーで薙ぎ払う。
もはやそれは蹂躙に等しい破壊力だった。
ラストということでコース上の罠は減り、全体の難易度は多少下がっているものの、それを加味しても異常な速度である。
仮にすべての罠が健在だったとしても、おそらくボブの鎧を壊せないので結果は同じだろう。
『おいおいおい』
『滅茶苦茶なパワーとスピードだな』
『これで探索者を引退してるってマジ?』
『ボブは引退詐欺だから』
『商人やめて探索者に戻ってこい!!』
リスナーも興奮している。
画面越しにもボブの迫力は十分に伝わっているようだ。
既に出番を終えた選手達も唖然としていた。
気持ちはよく分かる。
それだけボブの力が圧倒的なのだ。
間もなくボブはゴールに到着した。
タイムはちょうど十秒。
圧巻の走りだった。
僕はさっそくボブのインタビューへと向かう。
「さすがだね。コメント欄も大盛り上がりだよ」
「ううむ、やっぱり全盛期ほどの速さは出ねえけどな。俺も衰えたもんだ。鍛え直したくなるぜ」
ボブは不満そうにしている。
別に今のままでも隔絶した強さなのは間違いないが、本人なりの考えがあるのだろう。
(重い装備を外して、速度重視にすればよかったと思うけど……)
ボブなら身軽な状態でもクリアできたはずだ。
ただ、ド派手にクリアして自慢したい気持ちがあったのだと思う。
少し見栄っ張りなボブの姿に、僕は苦笑した。