第53話 ダンジョン大会を開催してみた⑧
トラップメンの死後、抽選でチャレンジの順番を決めた。
それから選手達はタイムアタックに挑む。
しかし、なかなかクリア者は出ない。
途中でギブアップする者や、挑戦前から棄権する者はまだいい。
罠で大怪我を負ったり、即死する者も少なくなかった。
現場は阿鼻叫喚の光景で、コース内はどんどん血みどろになっていく。
色々と滅茶苦茶な企画だが、選手には事前に誓約書にサインしている。
だから文句の類は出てこない。
そもそもここはダンジョンである。
商業施設になっているとは言え、法律的が微妙に及ばないエリアだ。
過激な企画内容も「限りなく実戦に近付けたトレーニングである」という建前で押し通せる。
スタッフによると入り口付近に抗議団体がいるそうだが、まあ気にすることはない。
(それにしても、この展開は配信的な盛り上がりに欠けるな……)
僕が懸念を抱くうちに、新たな選手がスタートする。
その男は最初から全力疾走だった。
加速するスキルで罠を強行突破し、短期決戦で走り抜ける作戦らしい。
しかし、半分もいかないくらいでトラバサミに足首を噛み砕かれた挙句、背中に何枚もの手裏剣が刺さってしまった。
そこから粘ることなく、男は悲鳴混じりにギブアップを宣言する。
罠を全停止させたスタッフが満身創痍の選手を医務室へと運搬していく。
『あーあ、十人連続失敗……』
『難しすぎるよ』
『佐藤ミスったな』
『そろそろクリア見たいな~』
コメント欄も失望しつつある。
空気感が良くない。
ここは次の選手に流れを変えてもらうしかなかった。
僕は元気よくその名を呼ぶ。
「続いての選手はアイドルの死屍本レイさんです!」
「はーい! よろしくお願いしまーす☆」
死屍本さんは軽やかな動きで進み出て、カメラ目線でポーズをとる。
沈んでいたリスナー達のテンションが瞬く間に最高潮に達した。
『レイちゃーん!!!!!!!!』
『待ってた!』
『流れを変えてくれー』
『危ないから棄権してもいいよ!』
『いのちをだいじに』
やはり死屍本さんの存在は大きい。
彼女に感謝しつつ、僕はマイクを向けて尋ねる。
「自信のほどはどうでしょう」
「絶対にクリアします☆」
「いいですね。それではお願いします!」
死屍本さんはスタート地点のボタンを押す。
そのまま踏み込むかと思いきや、彼女は両手を合わせてブツブツと呟いた。
数秒後、コース上に放置された複数の死体が動き出す。
それらは先に死亡した選手達だった。
死屍本さんはスキルで彼らをアンデッド化したのである。
アンデッドの選手達は、呻き声を上げて前進を始める。
罠をどれだけ食らっても怯まず、障害物を破壊しながら安全なルートを作っていった。
死屍本さんはスキップしながらその道を辿る。
なかなかの頭脳プレイに、他の選手達から拍手が起こった。