第5話 闇バイトをぶっ潰してみた⑤
ロングソードの男が真っ先に仕掛けてきた。
大上段からの斬撃だ。
真正面から迫力満点に跳びかかってくる。
「おら死ねやァ!」
僕はナイフをかざしてロングソードを弾いた。
即座にローキックを放って男の左膝を粉砕する。
「あ、足がぁっ!?」
男は倒れて悶絶した。
ロングソードを手放してゴロゴロと転がる。
僕が蹴った左膝は明らかに角度がおかしかった。
『うわ』
『痛そう』
『何の格闘技?』
『クリーンヒットだ』
僕は男の前に屈み、金槌を振り上げた。
振り返ってスマホの映りを確認してから宣言する。
「一つ目のスキルを紹介しまーす。【急所狙いB】です」
躊躇いなく金鎚を振り下ろした。
打撃は男の額より少し上に直撃した。
鈍い音が響き、男から呻き声が漏れる。
「スキル名の通り、急所へのダメージが上昇します。人間は急所だらけなので便利ですよー」
僕は男の股間に連続で金鎚を叩き付けた。
男は白目を剥いて痙攣し、やがて泡を噴き始める。
その光景にはコメント欄も阿鼻叫喚だった。
『うわ』
『やっば』
『玉がヒュンってなる』
『思わず押さえたわ』
仕上げに頭を何度か殴ると男は死んだ。
僕は壊れた金鎚を捨てて立ち上がる。
「ははは、これで残るは二人――」
背後で銃声が鳴り、僕の身体は吹っ飛ばされた。
強烈な痛みに襲われて手足が痺れる。
出血の感覚もあった。
これはかなりの量だろう。
どうやら散弾銃を食らったらしい。
『えっ』
『マジかよ……』
『撃たれた』
『佐藤ーーーーーー!!!』
『死んだ?』
動かない僕の視界に、散弾銃を肩に担ぐ男が入ってきた。
男は舌を出してここぞとばかりに嘲笑してくる。
「馬鹿が! 隙だらけなんだよォ!」
男が足を上げて僕の顔面を踏み付けてきた。
仮面越しでもグリグリと力を込められているのが分かる。
隙間から湿った砂利が口に入ってきた。
やがて足をどけた男は、僕の顔に手を伸ばす。
「へへ、ふざけた狐面を剥いでやる」
「やめてくださいよ。身バレ防止なんですから」
僕は男の太腿にナイフを突き刺す。
そのまま体重を乗せて斜めに引き裂いた。
突然の反撃を受けて、男は情けない悲鳴を上げる。
「あいいいぃぃッ!?」
僕は男を掴んで引き倒した。
間髪入れず、首に肘打ちを決めて頸椎を砕き割る。
男は大きく痙攣してから動かなくなった。
僕は死体から散弾銃を奪って起き上がった。
「ふう、痛いですねえ」
背中から大量の血が流れ出ている。
脇腹も抉れており、ジャージの生地が穴だらけになっていた。
僕はぐっと伸びをして深呼吸をした。
それからスマホに向かって笑顔で手を振ってみせる。
『あれ?意外と平気そう』
『なんで生きてるの』
『ゾンビで草』
『何かのスキルか?』
わざと散弾を食らった甲斐もあって大盛り上がりだ。
不思議がるリスナー達に向けて、僕はスキルの紹介をする。
「僕は【不死身B】があるので致命傷でも死なないんですよ。ちなみにさっきのナイフ攻撃は【奇襲B】で威力二倍でした。即死ドッキリ大成功ーっ!」
『笑いのセンスはないけど強いな佐藤』
『てかBランクスキルを三つ持ってるの?』
『普通はCでもすごいのにね。だいたいDとかEだし』
『ひょっとしてAランクもあるかも』
『さすがにそれはないでしょ』
議論するコメント欄を笑いつつ、僕は通路の奥に注目する。
冷徹な眼差しでこちらを見つめるのは、鉈を持つ男だ。
仲間の死体を一瞥した後、男は静かに歩き出す。