第37話 迷惑系ライバーを成敗してみた⑥
刺されて刺されて切られる。
切られて切られて刺される。
僕はトラップメンのリーダーから一方的に攻撃されていた。
目を潰されたので見えないが、かなり必死な様子が伝わってくる。
単純なフィジカルでは僕に敵わず、隙を突いた今こそが好機だと分かっているからだろう。
足の腱を切られた僕は転倒し、仰向けの姿勢のままナイフで抉られる。
配信中のスマホを保持できているのが唯一の救いだった。
『やばいやばいやばい』
『さすがに死んだ?』
『再生能力が追い付いてない』
『トラップメン勝利エンド』
何十回も攻撃されるうちに、ナイフの動きが大雑把になってきた。
太刀筋から隠し切れない疲労が窺える。
どこまでやれば僕が死ぬか不明瞭なので、リーダーは常に全力で攻撃し続けねばならない。
そのプレッシャーは想像以上に大きいのだ。
(ピンチの演出はもう十分か)
僕は再生能力を片手に集中させて一瞬で治した。
その手でリーダーの首を掴んで力を込める。
リーダーが驚愕して硬直した。
「ぬがっ!?」
「あばいでず、ねぇ……」
喉を切り裂かれていたせいで上手く発声できなかった。
僕はリーダーの頭を地面に叩き付けて、滑り落ちたナイフを蹴飛ばす。
そして馬乗りになって動きを封じた。
『なんで一気に再生できたの?』
『スキルランク低かったよね』
『たぶん再生箇所を絞って回復速度を上げたんだ』
『器用だな』
僕はリーダーの顔をスマホで撮りつつ、笑顔で首を絞める。
リーダーが執拗に腹を殴ってくるが気にしない。
もう内臓やら何やらが飛び出してぐちゃぐちゃなのだ。
今更、新たな痛みが加わったところで誤差の範囲である。
僕は足腰に再生力を注いで立ち上がり、リーダーを高々と持ち上げた。
少し遠くでは、死屍本さんが釘バットを振りかぶっていた。
彼女はワクワクした顔で待ち構えている。
「いきますよー」
「はーい★」
僕はリーダーを豪快に投げる。
死屍本さんはフルスイングの釘バットで迎え撃つ。
釘バットの打撃はリーダーの顔面に炸裂し、軽々と吹っ飛ばして天井に激突させた。
天井にへばりついたリーダーは死んでいた。
死屍本さんによる渾身の一撃を食らったのだから当然だろう。
リーダーから垂れた血が枯れた噴水広場に滴っている。
グロテスクな惨殺死体を目撃したことで、周囲の探索者が騒然とし始めた。
大半の人間が出口へと殺到し、一部の実力者は僕達を注意深く観察してくる。
突発的な企画だったが、なかなか盛り上がって僕は満足だった。