第36話 迷惑系ライバーを成敗してみた⑤
僕と死屍本さんは、トラップメンの最後の一人を急いで追う。
なぜなら進んでいる方角がダンジョンの出口だからだ。
始末した二人を時間稼ぎに使って逃げ切るつもりらしい。
リスナー曰く、残っているのがリーダーだそうだ。
命惜しさにメンバーを囮にするとは、とんでもない悪党である。
やがて僕達は最後の一人に追い付く。
そこはダンジョン入り口の噴水広場だった。
マスクとサングラスで顔を隠したその男は、僕達を見た途端にぎょっとする。
「はぁ!? もうここまで来たのかよッ!」
リーダーは出口へと走り出す。
驚く他の探索者を突き飛ばしながらの全力疾走だ。
僕は死屍本さんから鎖を借りると、それを一直線に投げ放つ。
鎖がリーダーの腰回りに巻き付いたのを確認し、力任せに引き戻した。
その瞬間、リーダーが軽々と宙を舞った。
「うおっ」
リーダーが受け身も取れずに地面を転がる。
その間に僕は距離を詰めて、握りしめた拳を振りかざした。
しかし、割れたサングラスの奥で、リーダーの目が悪意で輝く。
彼の手が懐中電灯を持っていた。
「これでも食らえ!」
視界が真っ白に染まった。
懐中電灯による目くらましを食らったのだ。
しっかりと反撃の備えをしていたらしい。
そこから間を置かず、腹に鋭い痛みを覚える。
視力が回復した時、腹には大型ナイフが突き刺さっていた。
内臓を抉る角度だ。
ナイフを握るリーダーは舌なめずりをする。
「ざまあみろ」
そこからリーダーは高速でナイフを動かす。
刺突や斬撃が次々と繰り出されて僕の身体を傷付けていった。
暗殺系スキルの条件を満たしたのか、一撃ごとのダメージが信じられないほど大きい。
ナイフが当たるたびに筋肉が裂け、血が沸騰し、骨が砕けて、内臓が破裂するような感覚だった。
スキルの補正が働いている証拠である。
リーダーの攻撃に素人臭さはなく、むしろ洗練されていた。
何らかの武術を習得しているのは間違いない。
迷惑系ライバーという立場で堂々と活動しているだけあって、優れた実力を有しているようだ。
「お前が不死身なのは知っている! だから再生が追い付かないスピードで攻撃してやるよ!」
リーダーの攻撃は止まらない。
巧みなナイフ捌きで僕は滅多刺しにされていく。
後ろを見ると、死屍本さんが棒立ちでニコニコと待機していた。
助けに入る必要はないと判断したらしい。
確かに不死身なので平気だが、ちょっと薄情すぎないか。
苦笑する僕の両目をナイフの刃が横断した。