第34話 迷惑系ライバーを成敗してみた③
撮影されて苛立つ男だったが、次第に余裕を取り戻していく。
彼は両手を広げて大笑いした。
「馬鹿だねえ! よく見てみなよ! ここには大量の罠がある! 掠るだけで猛毒が回るよ!」
確かによく見ると、行く手を阻むように無数のワイヤーが張り巡らされている。
ワイヤーの種類を変えているのか、蛍光色のものや、目視では見えづらいものも混ざっていた。
ご丁寧に毒針も括りつけられており、避けて進むのは不可能に近い。
男は悪意に満ちた表情で自慢を続ける。
「腕利きでも突破に十分はかかる罠ゾーンだ! 迂回しても同じくらい時間がかかるから、その間に俺達は逃げ切るって寸法さ!」
そこまで語った男は、背中を見せて走り出した。
男はハンディタイプのカメラを掲げながら大声で宣言する。
「じゃあね! また次に会った時は、あんた達で企画を撮ることにするよ!」
あっという間に男の姿は見えなくなった。
僕は感心してワイヤー群を観察する。
「なるほど。短時間でここまで準備するとは、なかなかの技量ですね」
『褒めてる場合か!』
『早く追いかけろよ!』
『十分以内に解除しろ!』
リスナー達がかなり焦っている。
このまま見失ってしまうのではないかと思っているようだ。
僕はナイフを握って前に進み出る。
「ご安心ください。対策はちゃんと考えてますから」
そう言ってナイフをワイヤーに叩きつけた。
力任せに切断しつつ、腕で押し退けて道を作っていく。
ワイヤーの強度は大したことがないため、難なく撤去することができた。
毒針が刺さっても気にしない。
とにかくスピード重視でワイヤーの処理を進めていった。
『えっ』
『うわ……』
『ゴリ押しかよ!』
『猛毒じゃなかったの!?』
『佐藤は不死身だから大丈夫』
『強引だなぁ……』
一分もかからずに僕はワイヤーの罠を突破した。
猛毒のせいで身体は不調だが、この程度で死ぬことはない。
放っておけば回復するようなダメージだ。
こういう時こそスキルを有効活用すべきだろう。
正攻法なんてどうでもいい。
僕は優雅に一礼して死屍本さんに呼びかける。
「さあ、どうぞ」
「ありがとうございまーす★」
猛スピードで駆け出した死屍本さんは、無傷で罠の間を抜けて疾走する。
ぎらつく彼女の目は、トラップメンの二人目を求めていた。




