第32話 迷惑系ライバーを成敗してみた①
僕と死屍本さんは、迷惑系ライバーのトラップメンを追跡する。
向こうは全力疾走で逃げているようだが、こちらが見失うことはない。
なぜなら【気配察知B】と【捕食者の嗅覚B】でしっかりと反応を捉えているからだ。
死屍本さんも【報復の執念B】というスキルを使っているらしく、ダンジョンの分岐路にも惑わされていない。
『盛り上がってきた』
『トラップメン嫌いだから最高の企画』
『佐藤キツネの本領発揮』
数分もしないうちにトラップメンを発見した。
ワイシャツの上にボディーアーマーを着た男が必死に逃げている。
一瞬振り向いた顔は、目出し帽のせいで分からない。
他のメンバーがいないのは、途中で別の道に行ってしまったからだ。
バラバラになることで僕達を撒くつもりなのだろう。
無論、そんな策は通じない。
こうして追いかけながらも、僕の意識は他のメンバーを捕捉し続けている。
ルートにもよるがすぐに追いつけるはずだ。
「見つけましたー! 懺悔してくださーい★」
いきなり死屍本さんが加速した。
彼女は高速回転させた鎖をカウボーイのように投げ放つ。
鎖は男の足首に絡まって転倒させた。
腰でも打ったのか、男は短く呻いて動けない。
そこに死屍本さんが跳びかかる。
「脳みそぶちまけてくださいね★」
「くそが!」
男がカッターナイフを構えた。
見るからに貧弱な武器だが嫌な予感がする。
何かスキルを発動する気だ。
このまま二人をぶつけてはいけない。
咄嗟に判断した僕は、拳銃で男の手を撃ち抜いた。
破壊されたカッターナイフが地面に落ちて、男が悲鳴を上げる。
そして、死屍本さんは釘バットを振りかぶった。
横殴りの一撃は、男の側頭部にめり込んで刺さった。
鈍い音が鳴り響いた後、男は崩れ落ちて死んだ。
肢体から釘バットを引き抜いた死屍本さんは、わざとらしく自分の頭を叩く。
「あらら! 思わず殺っちゃいましたー★」
『仕方ないよ』
『ドンマイ』
『これは正当防衛』
『因果応報ってやつよ』
コメント欄は死屍本さんを擁護するか褒め称えていた。
トラップメンの死を嘆く者は一人もいない。
日頃からそれだけ嫌われているのだろう。
僕は死屍本さんを映しながら発言する。
「ご覧の通りトラップメンの一人目を殺害しました。逃げたのはあと二人でしたね。このまま追い詰めようと思います」
『がんばれ』
『応援してるぞ』
『もっと苦しめようぜ』
リスナー達の励ましを受けながら、僕と死屍本さんは歩き出した。