第30話 人気ライバーとコラボ配信してみた⑨
それは配信時間が一時間を越えた頃だった。
戦闘を終えた死屍本さんが突如として倒れた。
糸が切れたかのような、不自然な倒れ方だった。
「あっ」
僕はすぐさま駆け寄る。
死屍本さんは赤い泡を噴きながら痙攣していた。
意識もまともに保てていない様子だ。
僕はその状態を見て呟く。
「これは……毒ですかね」
『呑気に分析するな』
『早くレイちゃんを助けて!』
『さすがにまずいだろ』
『ふざけんなよ佐藤』
リスナーから猛批判を受けてしまった。
何かできる立場にない彼らにとって、死屍本さんが苦しむ姿はとてつもなく焦るものだったらしい。
僕は罵詈雑言の嵐となったコメントを流しつつフォローを入れる。
「皆さん慌てないでください。死屍本さんなら自力で復活できますよ」
言ってる間に死屍本さんの全身が発光し、容態が落ち着いた。
毒をスキルで解毒したのだろう。
攻撃特化な死屍本さんだが、回復能力もシンプルに高い。
苦しみながらも円滑にスキルを使えているのが何よりの証拠だ。
戦闘中にも冷静な立ち回りができれば完璧とは思うものの、そこまで望むのは贅沢だろう。
上体を起こした死屍本さんは、きょろきょろと周囲を見る。
そして胸に手を当てて笑った。
「ふう、びっくりしました☆」
「もう平気ですか?」
「はい! お騒がせしました☆」
戦いの狂気からアイドルモードに切り替わっている。
さすがプロだ。
普通ならパニックになりかねないところを、早くも平常運転になっている。
解毒もしっかり済ませたようで、体調面に不安はなさそうだった。
そこまで確かめた僕は、死屍本さんが倒れた場所を注視する。
よく見ると、通路にワイヤーのようなものが張られていた。
等間隔で小さな針も付けられている。
針には何か液体が塗られていた。
「…………」
僕は指先で針を撫でる。
少しピリピリする。
死屍本さんはこの毒針に触れて倒れたのだろう。
僕はスマホのズームで何があるか見せて状況を説明する。
「罠ですね。誰かが仕掛けていたようです」
しかもこのダンジョンには存在しないタイプだ。
ゴブリンにしても巧妙すぎる。
おそらく人間の仕業だろう。
その時、毒針の通路の向こうに人影が見えた。
囁き声での会話も聞こえてくる。
「撮れたか?」
「うん」
「よし、じゃあ行くぞ!」
数人の人影は通路の奥へと逃げ去っていく。
それをスマホで捉えた僕は、静かに笑みを深めた。




