第3話 闇バイトをぶっ潰してみた③
「敵が出てくるまで雑談しましょう。皆さんはダンジョンについてどれくらい知ってますか?」
僕はダンジョン内を歩きながら提案する。
コメント欄はすぐに反応した。
リスナー達は我先にと自分の知識を披露する。
『だいたい三十年前から始まった異常現象だよね』
『研究しても謎だらけなんだとか』
『ダンジョンは世界各地にいっぱいあるよ』
『うちの近所にもダンジョンが生えてきたって』
『ダンジョンってあんまり珍しくないよね』
義務教育でも登場し、専門で学ぶ者もいるのがダンジョンである。
現在では法整備も行われており、出現当初と比べて世間に受け入れられていた。
ダンジョンに潜る人間は探索者と呼ばれ、様々な業種が携わって一大ビジネスとなっている。
既に市場から切り離せない資源になっていると言えよう。
「一説には異世界の断片が漂流してきたものがダンジョンらしいですが、まあ確証はありません。実にロマンがあっていいですよね! 僕もダンジョンのおかげで配信のネタには困らなさそうです」
『結局そこかよ!!』
『配信で金儲けできるもんね』
『素直でよろしい』
『佐藤おもろいやん』
コメント欄のツッコミに笑っていると、前方の曲がり角から男が現れた。
顔に傷を持つ男は、僕を指差していきなり叫ぶ。
「あぁっ!!」
「こんにちはー、佐藤キツネですー」
僕は挨拶ついでに拳銃を連射する。
男は反射的に躱そうとするも、腹と胸に弾を食らって倒れた。
まだ生きているようなので、顔面に二発撃ちこんでとどめを刺しておく。
弾切れの銃をリュックサックに戻す僕をよそに、リスナー達が大いに沸き立っていた。
『早撃ちさすが』
『俺じゃなきゃ見逃してたな』
『狙いが雑すぎ。素人か?』
『専門家様キタ』
アンチも現れたようだ。
人気の証拠なので悪くない。
別に変なコメントが来たところで傷付くことはない。
銃の代わりに金鎚を握った僕は、引き続きダンジョンの奥を目指す。
「もう完全に見つかってますねえ。敵は何人くらいいるんでしょう」
『ゾクゾクしてきた』
『すごいライバーが出てきたなぁ』
『もっと殺しまくって』
過激なコメントも増えてきた。
やはりこういうコンテンツは需要があるのだろう。
『呑気だね。大丈夫か?』
「平気ですよ。これくらいでビビッてちゃ配信なんてできませんから」
仕事柄、殺人なんて慣れ切っている。
それを配信に映すだけなの労力もそこまで変わらない。
強いて言うなら、画角を意識しなければならないのが面倒なくらいだろうか。
リスナーが求める映像を提供するのは難しい。
その辺りは今後の課題でもあるだろう。
「あっ、いたぞ!」
「どうも」
ナイフを構えて突進してきた男を蹴り飛ばし、額に金鎚を叩き付ける。
仰け反った男は血を噴き出した。
「ぐべぁっ!?」
男はよろめきながらも倒れず、ぎろりと睨んできた。
ナイフを握り締めて、執念深く反撃を狙っている。
「タフですねえ。耐久系スキル持ちですか?」
男の膝を金槌で砕き、姿勢が崩れたところで再び頭を殴る。
振り回されるナイフだけ注意して、ひたすら金槌で攻撃し続けた。
その間、コメント欄の盛り上がりも最高潮になる。
『すげー度胸だな佐藤!』
『いいぞ佐藤!』
『応援してるぞ佐藤!』
謎の佐藤コールを受けながら、僕は金鎚で男を殴り殺した。