第29話 人気ライバーとコラボ配信してみた⑧
死屍本さんが頭上で釘バットを回転させている。
高笑いする彼女は、勢いを乗せて振り下ろしを放った。
釘バットはゴブリンの顔面に炸裂し、皮膚と眼球をあっけなく引き裂く。
そのまま頭蓋を陥没させてめり込んだ。
「あっはっはっは! 簡単に壊れちゃいましたね★」
嬉しそうな死屍本さんのもとに別のゴブリンが接近する。
ゴブリンは石のナイフを握っていた。
腰だめに突進して腹を刺すつもりなのだろう。
足音に反応した死屍本さんは、手首のスナップで鎖を素早く往復させる。
その力が波のように伝わり、鎖の先端が加速して跳ねた。
鎖はゴブリンの太腿に命中し、肉を抉って骨を砕く。
強烈な痛みにゴブリンは転倒して悶え苦しむ。
そこに死屍本さんは悠々と近付いて、掲げた釘バットを叩き付けた。
「おお、すごいですね。見事な戦いっぷりでした」
『さすがレイちゃん』
『狂ってるけど綺麗だよな』
『ああいう顔も良い』
『わかる』
『俺も同意』
現在、僕達はレベル上げのためにダンジョンを探索中だ。
その過程で豹変した死屍本さんの動きを見せてもらっている。
一言で述べると、死屍本さんの戦い方は非常に危険だ。
攻撃に全意識を注ぐことで、凄まじい気迫と火力を発揮している。
威力を上乗せするスキルも持っているようで、単純なパワーなら僕を凌駕するのではないか。
今回はゴブリンが相手だったが、もっと手強い魔物にも通じるだろう。
ただし、回避と防御はまったく考慮されていないのが最大のネックである。
そのせいで打たれ弱さが目立つ。
特に複数の敵に囲まれた時なんかは対処が遅れていた。
立ち回り自体も素人臭さがあり、少なくとも格闘技の経験者でないのは確かだった。
受けたダメージを回復系スキルでカバーしているが、それにも限度がある。
本人も理解した上で、短所を直すより長所を尖らせることを選んだのだろう。
リスクはあれど、決して悪い考えではない。
弱点は同行者に補ってもらうというのは至極真っ当なスタイルである。
完全無欠な人間などいないのだから、必要な部分は積極的に頼っていくべきだ。
総括すると、ダンジョンアイドル死屍本レイとは攻撃特化型の探索者なのである。
色々と分析していると、リスナー達から話しかけられた。
『今回の佐藤さん、暇そうだね』
『やることないもんな』
「そうなんですよね。邪魔をするのも申し訳ないので、ここは大人しくしておこうと思います」
一応、今回の企画は戦闘指南を兼ねている。
だから最初はアドバイスを挟んでいたが、途中からは省略していた。
死屍本さんはその場ではしっかりアドバイスを聞いてくれるものの、いざ戦いになると実践しないからだ。
殺し合いで興奮して理性が飛ぶタイプなのだろう。
遭遇する魔物も彼女に独占されてしまっており、本当に僕の仕事は無くなっている。
仕方ないのでリスナーと雑談しながら、死屍本さんの戦闘を撮影することにした。