第28話 人気ライバーとコラボ配信してみた⑦
物々しい武器を前にした僕はコメントに困る。
さすがに予想しない出来事だった。
「おっと、これは……」
「私のお気に入りの武器なんです! とても頑丈で使いやすいんですよ★」
死屍本さんは蕩けそうな笑みで鎖と釘バットを見せてくる。
今にも頬ずりしそうな勢いだ。
潤んだ瞳はどろどろの狂気を宿している。
その異様な姿を見たリスナー達は、意外にも平然としていた。
『あ、本性だ』
『やっぱり出てきたか~』
『コラボ配信だと多いよね』
そのうち死屍本さんは煙草を吸い始めた。
しかも片手にはウイスキーを持ち、合間で豪快に呷っている。
あまりにもアイドルとかけ離れた行動だが、こんなところを配信で映してもいいのだろうか。
さすがに気になった僕はリスナー達に尋ねた。
「えっと、皆さんにとっては恒例なんですかね」
『もちろん』
『これが死屍本レイの真骨頂』
『むしろ何で知らないの?』
『コラボ相手の概要くらい調べろよ!』
なぜか叱られていしまった。
とりあえず僕の心配とは裏腹に異常事態ではないらしい。
すぐに気の利くリスナーがコメントで真相を教えてくれた。
『死屍本レイはぶりっ子キャラで有名だけど、戦闘が絡むと豹変するんだよ』
『いきなりアイドルムーブを捨てて残酷になる』
『戦闘スタイルは超攻撃特化』
『ボスモンスターも単独で倒せる力がある』
『防御を捨てるから弱い時もあるよね』
『猪突猛進をやめればヤクザに拉致られなかったのに……』
ようするに死屍本さんは、元からこういうギャップで売っているアイドルだったわけだ。
彼女のことを調べずに接していたので初耳だった。
リスナーの反応を見るによくあることなのだと思う。
この振り切った感じが人気の秘訣なのだろうか。
僕にはよく分からない。
なんだかとんでもない人とコラボしてしまったのは確かだった。
「さあ、早く魔物を探しましょう! ぶっ殺せるのが楽しみです★」
酒に酔う死屍本さんが腕を引っ張ってくる。
当初のキャラを放棄したその顔は、殺戮への期待で輝いていた。
彼女が握り締める鎖と釘バットを見て、僕は苦笑する。
「そうですね。前衛をお願いできますか?」
「任せてください! 佐藤さんが暇になっちゃうくらいがんばりまーす★」
死屍本さんは千鳥足で駆け出した。
壁にぶつかり、躓きそうになりながらも気にせず進んでいく。
猪突猛進という評判はとても正確だったようだ。
全身から発散される殺意は凄まじいが、一方であまりに隙だらけすぎる。
放っておくとあっさり死にかねない。
僕は早足で死屍本さんの後を追いかけた。