第20話 ダンジョンのヤクザと対決してみた⑬
周囲は死体で埋め尽くされていた。
人間や魔物が混在し、いずれも炭化して原形を留めていない。
生き残っているのは腰を抜かした親分だけだった。
親分は恐怖と絶望に打ちのめされた顔で震えている。
「そ、んな……馬鹿な……」
「フフフ」
僕は死体を踏みながら歩みを進める。
あれから残るヤクザと魔獣が一斉に襲いかかってきたが、僕を止められるほどの力はなかった。
持参した魔術武器の日本刀が強かったのもあるだろう。
炎属性と防御貫通の効果がシンプルに凶悪で、敵をほぼ一撃で殺すことができた。
これは持ち帰ってオークションで売ろうと思う。
僕は歩みを止めて日本刀の切っ先を親分に向けた。
「残るはあなただけですね」
「く、来るな! 金なら出すぞ、いくら欲しいか言ってみろ! その倍は用意してやる!」
親分は必死に提案してくるも、僕の意志は変わらない。
ゆっくりと日本刀を掲げて振り下ろす準備をする。
その途端、親分はさらに早口になって誘いをかけてきた。
「そうだ! これも何かの縁だ、一緒に組織を起こさないか! わしのノウハウとお前さんの力があれば天下を取れるぞ!」
「…………」
僕は設置していたスマホに視線を向ける。
そして手を振りながらリスナー達に呼びかけた。
「ここは皆さんの意見を参考にしましょう。コメント欄で教えてください」
僕は画面に注目する。
コメント欄の勢いが数倍に跳ね上がって流れ始めた。
いずれも親分の処遇について主張していた。
『さっさと殺そうぜ』
『うん、処刑』
『多数決で殺し方決めよう』
『斬首』
『切腹』
『火炙り』
『撲殺』
『爆殺』
『魔物に食わせる』
僕は思わず笑ってしまった。
途中から親分の処刑方法について議論が交わされており、許すという選択肢は皆無だった。
誰もがこの残酷な提案を心から楽しんでいる。
こういう時ほど民衆は団結するものだ。
「はは、どんどん素敵なアイデアが提供されてきますよ。親分さんは大人気ですねえ」
「ふざけるなよ! てめえらはクソだ! いいか、絶対に――」
怒鳴りまくる親分の脳天へと日本刀を振り落とす。
淀みなく斬り抜けた刃が地面に達し、親分の身体が左右に分かれて倒れた。
断面から血や臓腑が溢れ出してタイルの溝に沿って広がっていく。
僕は死体を足蹴にして笑った。