第2話 闇バイトをぶっ潰してみた②
僕はその場で深呼吸をした。
外とは空気が少し違う気がする。
ねっとりと喉に絡み付く、嫌な空気だ。
ここが物理法則の通じない特殊空間――ダンジョンなのだと思い知らされる。
「私有地に発生した小型ダンジョンを薬物の栽培に利用してるようですね。財宝や魔物によるレベル上げは期待できなさそうですが、用途を考えると好都合なんでしょう」
ダンジョンは規模によって特性が変わってくる。
通常は財宝や魔物が自然発生するものだが、小型の場合はそれらの特性が失われている場合があった。
そうなると使い道は大幅に減ってしまうものの、知恵を絞ればその限りではない。
たとえばダンジョン内でしか育たない違法薬物の栽培所にすれば大儲けできる。
やろうと思えばいくらでも悪用できるわけだ。
案の定、リスナーの間でも議論が勃発していた。
閲覧数の増加に従って勢いが止まらなくなっている。
『これ大丈夫なの?』
『どんどんリスナーが増えてる』
『ランキングにも載ってたよ』
『BANされるんじゃね?』
『いやないだろ』
そろそろ企画を進めるべきだろう。
僕はまたリュックサックを漁って喋り始める。
「さて、人も増えてきたので始めましょうか。迷宮内にいる闇バイトを全滅させまーす。まずは装備の紹介を」
「おいてめぇ! ここで何してやがる!」
ダンジョンの奥から怒鳴り声が聞こえた。
僕は咄嗟にスマホをずらして声の主が分かるようにする。
そこに立っていたのは、坊主頭の恰幅の良い男だった。
見るからに凶暴な雰囲気を纏っており、見るからに一般人じゃないのが分かる。
『なに?』
『見つかったね』
『草』
『どうするの』
男は僕を睨みながらズンズンと近付いてくる。
腕には物々しいタトゥーが彫られていた。
「おい。撮ってんのか? すぐに消せ」
「嫌ですよ。リスナーの皆さんがワクワクしてるんですから」
「ふざけんなッ!」
男がいきなり殴りかかってきた。
僕はリュックサックから拳銃を抜き出して発砲する。
弾丸は男の額をピンポイントで捉えていた。
きょとんとした顔になった男は、数秒遅れで膝から崩れ落ちる。
それから起き上がることは二度となかった。
「せっかちですねえ。配信の尺とか展開を考えてくださいよ」
僕は薄笑いを浮かべたまま拳銃を下ろす。
その光景はスマホにばっちりと映っていた。
当然ながらリスナーがざわめく。
『殺した』
『やばいやばいやばい』
『本物の銃?』
『神配信だ』
閲覧数のカウンターが高速で動いている。
とんでもない速度で配信が拡散されているようだ。
すっかり気分がよくなった僕は、拳銃を見せながら笑う。
「ではやっていきましょう。記念すべき一発目の配信を楽しんでくださいね」
片手で脚立を掴み、ダンジョンの前方が映るようにする。
ここからが本番だ。
さらに配信を盛り上げていこうじゃないか。