第19話 ダンジョンのヤクザと対決してみた⑫
ナイトウルフの死にヤクザ達は騒然とする。
まさかいきなり倒されるとは思わなかったのだろう。
良いリアクションが撮れたので、個人的には大満足である。
じっくりとヤクザ達を撮影していると、動揺する親分が怒鳴ってきた。
「な、何をしたんだ!」
「食べられた僕の腕を爆破しました。【人間爆弾E】の効果ですね」
僕は平然と答える。
ここで配信のコメント欄をチェックしてみた。
僕の発言を受けて、リスナー達はさっそく情報を出し合っている。
『人間爆弾って自爆系スキルじゃなかったけ』
『あとは他人を爆弾にしたりとかな』
『佐藤はわざと腕を食わせたんだよ。最初から時限式で爆破するつもりだった』
『それマジ?』
『イカれてるでしょ』
『こいつならやりかねん』
なかなか辛辣な意見があるが、事実なので否定できない。
この戦法は僕の常套手段だった。
わざと肉体を欠損することで相手の油断を誘いつつ、時間差で食われた場所を爆発させるのだ。
強靭な肉体を持つ魔獣でも、体内から吹き飛ばされれば致命傷となり得る。
僕の場合は欠損部位も再生できるため、さほど大きなデメリットはなかった。
『でもEランクなら雑魚スキルじゃないの? 一発で魔獣を倒せる?』
『人間爆弾はランクで汎用性が上がるだけ。威力には影響しない』
『Cランクで触った人間を爆弾にできる』
『Aは視線だけで爆弾化だっけ』
『鬼畜すぎる』
Eランクだと制御が難しく、時限爆弾にはできるものの起爆時間が大雑把になってしまう。
それでもこういう騙し討ちには使えるため、不便と思うことはなかった。
適切な戦況でなければ別の手段を考えるだけだ。
何も難しいことではなかった。
ナイトウルフの死骸を凝視する親分は怒りに震えていた。
やがて地団太を踏んで僕を睨み付けてくる。
「おのれぇ……!」
切り札のペットを殺されて激昂しているようだ。
僕は素知らぬ顔でヤクザの死体を漁り、ちょうどよさそうな腕を発見した。
少し長さや太さが違うが許容範囲である。
どうせ使い捨てなので問題なかった。
「腕一本で魔獣を殺せたのなら安いですね。お釣りが返ってきますよ」
僕は拾った腕を自分の腕の断面にくっつけた。
ぐりぐりと押し付けているうちに神経が通るような感覚が生じる。
数秒ほどで拾った腕が繋がった。
指もしっかり動かすことができる。
しっかり見ずに選んだせいで両手がどちらも右手になってしまったが、まあ困りはしないのでスルーする。
僕はスマホを三脚でその場に立てると、スポーツバッグから魔術武器の日本刀を取り出した。
鞘から抜いて軽く振ってみる。
ヤクザ達が緊張感に包まれて後ずさっていた。
「皆さん大好きカタナソードで仕上げといきましょうか」
僕は日本刀を掲げて駆け出した。