第17話 ダンジョンのヤクザと対決してみた⑩
ヤクザの親分が激昂し、部下達に怒号を飛ばす。
「たった一人に何やってんだ! さっさとぶち殺しやがれッ!」
次の瞬間、ヤクザの攻撃が激化した。
単に士気が上がったのではない。
親分が何らかの支援スキルを発動したのだ。
部下を恐怖で支配し、力を無理やり引き出したらしい。
(面白いし理に適った作戦だ)
親分を殺さなければ、部下達のパワーアップは止められない。
しかし、親分は部下達に守られている。
数に任せた突撃かと思いきや、ヤクザ達の動きは意外と洗練されており、隙らしい隙が見当たらない。
多大なる犠牲を出しながらも戦意喪失せず、攻めと守りを両立しているのだから褒めるべきだろう。
さすがはダンジョンに拠点を置くヤクザである。
警察も簡単には手出しできない戦力は伊達じゃないというわけだ。
「いいですねえ! ワンサイドゲームは盛り上がらないと思ってたところなんですよっ!」
僕は嬉しくなって攻撃スピードを何段階か上げた。
ヤクザとツーショットを撮りながら射殺したり、生首を蹴り飛ばして遊ぶ。
一生懸命に戦うのも悪くないが、僕の場合はそういった正統派を求められていないだろう。
常に配信を意識して行動しなければならない。
『おいおい、無双かよ』
『スキルガン積みのヤクザとか無理ゲーのはずなのに』
『戦い方が上手いとか?』
『むしろ下手だろ』
『不死身のゴリ押しで草』
『たぶんスキルだ。強力なレアスキルで戦力差を覆してる。佐藤はまだなにか隠してるんだ』
スマホの保持のため、片手が塞がっているのが残念だ。
おかげでかなり戦いづらい。
やはりドローン撮影を採用すべきだろう。
両手が空くだけで楽だし、殺し方にも幅を持たせることができる。
あとは身体に装着するタイプの小型カメラを使ってもいいかもしれない。
配信で儲けられるのは間違いないので、多少の先行投資は惜しまずに行っていこうと思う。
ハイペースで死体を量産していると、またもや親分の怒鳴り声が聞こえた。
「あそこの馬鹿を喰い殺せェッ!」
見れば首輪を着けた巨大な狼が跳びかかってくる。
僕はスマホを持っていない手を噛まれて、そのまま食い千切られてしまった。
断面から鮮血が迸り、割れた骨が露出する。
数メートル先に着地した狼は音を立てて租借し、のっそりとこちらを向く。
獰猛な肉食獣の眼差しは、僕の血肉を狙っていた。