第15話 ダンジョンのヤクザと対決してみた⑧
ヤクザの親分は静かな怒りを滲ませて僕を睨む。
「てめえ、ふざけんなよ。どこの組の差し金だ。それとも警察か?」
「皆さん、ボス登場ですよ。しかも囲まれて絶体絶命です。いやはや、困りましたねえ。さすがの僕も」
喋っている途中、銃声が鳴り響いた。
頭に衝撃が走って視界の半分が闇に染まる。
どうやらいきなり撃ち抜かれたらしい。
見れば親分がシルバーのリボルバー拳銃を握っていた。
命中精度から考えるに、射撃系のスキルを持っていそうだ。
一歩進み出た親分は、ヤクザの剣幕を露わにして凄む。
「俺が質問してんだ。ちゃんと答えろよ、馬鹿野郎」
『えっ……』
『頭撃たれた』
『終わりじゃん』
『佐藤ー!』
『あっけなかった』
ぼたぼたと血と脳漿が垂れ落ちている。
僕はへらへらと笑いながら顔を上げて、銃弾で弾けた頭を撫でた。
「いやー、すみませんね。視聴者への配慮に気を取られてました」
「なっ……!?」
親分とその部下のヤクザ達が騒然とする。
頭を撃たれて生きている人間に驚きを隠せないようだ。
それはコメント欄も同じらしく、画面を見るとなかなかの反響だった。
『!?!?!?』
『生きてる』
『まじ?』
『すご』
『不死身すぎて草』
僕にはスキルがある。
これくらいの致命傷では死なない。
放っておけば自然回復する程度のダメージに過ぎなかった。
特に身体機能に影響がないことを確かめてから親分に告げる。
「僕はよその組の鉄砲玉ではありませんし、警察の人間でもないです。ただの配信者ですよ。あなた達をぶっ殺して再生数を伸ばしに来ました」
「…………はぁ?」
親分が信じられないとでも言いたげに顔を歪める。
それから顔を真っ赤にして歯を剥くと、僕を指差して叫んだ。
「このクソ野郎を撃ち殺せェッ!」
ヤクザ達が一斉射撃を開始した。
全身を穴だらけにされながらも、僕はなんとかスマホだけは庇う。
防弾仕様の頑丈なタイプだが、扱いを気をつけて損はない。
これを破壊されると配信が止まってしまうのだから。
僕は消火斧を肩に担ぎ、ヤクザ達を眺めて微笑する。
まだそれなりの数が残っている。
撮れ高は十分に確保できそうだった。
「ここから映像がブレるのでご注意ください」
リスナー達に伝えつつ、僕は颯爽と走り出した。