第134話 新世界を生きてみた⑤
最終話です。
四方八方からゾンビが押し寄せてくる。
僕は高笑いしながらマシンガンをぶっ放して奴らを蜂の巣にした。
ついでに手榴弾も投げて突破口も開いておく。
「ゾンビの被害は防ぐべきですからね。事態が悪化する前に倒しちゃいましょう。ついでに物資も拝借します」
『本音丸出しで草』
『物資目当てかよ!!!』
『ただ殺したいだけかも?』
『善意じゃないのは確定』
車の側面に何かが追突してくる。
複数のゾンビが溶けて合体した変異体だった。
変異体は車を力任せに壊そうとしている。
さすがに面倒だったので、僕はその顔面にショットガンの連射を浴びせた。
頭部全体がぐちゃぐちゃになった変異体は、再生することもなく静かに崩れ落ちる。
僕は指笛を鳴らして銃を振り回した。
こういう時のために車には大量の武器を積んである。
置物にしておくのはもったいないし、在庫処分のつもりで使いまくってしまおうじゃないか。
車は寂れた住宅街を走る。
少しでも減速すると完全に包囲されるので常にアクセル全開だ。
銃火器でゾンビを迎撃し、分厚い肉壁を突破する。
些細な判断ミスが命取りになるスリルが最高だった。
『相変わらず強いよな』
『これぞ佐藤キツネの神髄』
『俺TUEEEEEE!!!』
車は時速百二十キロを超える。
小刻みにハンドルを操りつつ、僕はリスナーに問いかけた。
「さて、ここでクイズです。配信終了までに僕は何体のゾンビを殺せるでしょうか?」
『百体!』
『千体!!』
『一億万体!!!!!!』
『わからん』
僕は車を自動運転モードに切り替えると、限界いっぱいに武器を抱えて飛び降りた。
ゾンビに飛び蹴りを食らわせて着地しつつ、構えたマシンガンでさらに弾丸を撒き散らす。
鼻がもげそうな腐臭に包まれながら、僕は武器を置いて微笑む。
「よし、頑張りますか」
僕が動き出したと同時に、BGM機能が作動して脳内でハードロックが鳴り出した。
爆音のリズムに合わせてゾンビを殺しまくる。
飛び散る血と臓物に塗れる僕は、それでも止まらずに殺し続けた。
ゾンビは飽きずに集まってくるから移動の必要もない。
リスナーが楽しめるように意識しながら戦うだけだ。
世界は混沌を経て新たな秩序を構築し始めた。
しかし退屈な形には落ち着かず、誰にも予想できない未来へと進んでいる。
人類の可能性も無限に広がり、なんでもできる時代が到来した。
いずれも僕が待ち望んできたことだった。
誰にも支配されず、自由に謳歌することができる世界である。
黒幕なんていらない。
あるがままに狂っていくのが世界の本質だろう。
僕はつまらない枷を取り払ったのだ。
数百万のゾンビを殺しながら、僕は人生で成功の幸福を味わっている。
今後の人生でこの幸福がさらに更新されていくのだからたまらない。
もっと楽しく生きていこう。
脳漿を浴びる僕は強く誓った。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
新作を始めたので、よろしければそちらもお願いします。




