第133話 新世界を生きてみた④
日没ギリギリで目的の街が見えてきた。
しかし、何やら様子がおかしい。
街の外を数百人の住民が意味もなく徘徊している。
速度を落として近付いてみると真相が分かった。
住民はゾンビになっていた。
よく見れば街の中もゾンビだらけで、ちょうど溢れたところだったらしい。
俺の姿を認めたゾンビ達は、緩慢な動作で歩いて迫ってくる。
走るタイプではなく、古典的なノロいタイプのようだ。
「おいおい、ひでえなこりゃ……」
車で街の外周を進みつつ、ハッキングで街のデータを確認する。
新種の病のパンデミックにより、およそ七百四十万人のゾンビが発生していた。
生き残りは一割未満で、ほとんどが半日以内に死ぬだろう。
ちなみにゾンビに噛まれるとゾンビになるらしい。
この辺りはお約束なので驚きはなかった。
追いかけてくるゾンビの群れを見て、俺はニヤリと笑う。
「ラッキー、盗み放題じゃねえか」
車を急旋回させて街の門へと向かう。
群がるゾンビを撥ね飛ばしながら加速し、門をぶち破って街の中へと侵入を果たした。
そのまま猛スピードで通りを突き進んでいく。
あちこちゾンビだらけでスリル満点だった。
「いいじゃねえか。企画向けのシチュエーションだ」
俺は狐面を装着し、側頭部を二回ノックする。
脳内に埋め込んだナノマシンが起動し、視界が配信仕様に切り替わった。
閲覧数やコメント欄が表示されて、続々とリスナーがやってくる。
同時に人格が裏返る感覚に襲われた。
それが落ち着いた後に俺……いや、僕は挨拶をする。
「こんにちはー、佐藤キツネでーす。今回はゾンビを殺しまくろうと思いまーす」
『やったーーー!!!』
『おっすおっす』
『佐藤・バート・キツネ・スミスじゃん』
『今日もスパチャしたよ~』
『ゾンビ映画撮ろうぜ。エキストラが無料だし』
『配信頻度上げてくれ』
リスナーからさっそくコメントが投稿される。
世界の人口が天文学的な数値を超越したので、閲覧数も以前とは桁違いだ。
おかげで収益の部分も申し分ない額となっていた。
新たな世界でも、僕は配信をやめられずにいた。
目的もなくやるのが楽しくて、なんだかんだでライフワークとなっている。
命令や陰謀もないため、マイペースにできるのも大きいだろう。
今では配信活動が天職とまで思っていた。




