第130話 新世界を生きてみた①
俺はオンボロの車で荒野を走る。
最低限の舗装すらされていない道は、容赦なく尻に振動を与えてくる。
ドライブを楽しむには不向きな環境だった。
ラジオからは女の歌声が流れてくる。
ポップな雰囲気の日本語だ。
確か死屍本レイの新曲だったか。
今週の売り上げランキングで一位となり、未だ勢いが衰える気配がないらしい。
この分なら来月まで順位をキープしそうである。
「儲かりまくりで羨ましいもんだな……」
ため息混じりにぼやいていると、急に気温が上がってきた。
見れば空から燃え盛る隕石が落下してくるところだった。
軌道から考えるに、着弾点は俺の進行方向だろう。
「マジかよ」
慌ててブレーキを踏み、道を引き返そうとするが間に合わない。
俺は車の中で伏せて少しでも被害を抑えようとする。
その直後、とんでもない衝撃と爆発音が襲いかかってきた。
吹き荒れる砂嵐に巻き込まれて車が激しく横転する。
車内にいる俺はあちこちに身体をぶつけながらも耐えるしかなかった。
横転が止まったタイミングで俺は車外へと這い出る。
全身が痣と血だらけで手足や肋骨が折れていた。
「クソッタレが……」
なんとか立ち上がって衣服の砂を払い落とす。
少し離れた場所に広大なクレーターが出来上がっていた。
ここからは見えないが中心部には隕石が埋まっているはずだ。
とんだ事故に遭遇したが、隕石落下でこの程度のダメージなら運が良いだろう。
そもそも、これくらいで驚いていては生きていられない。
世界滅亡級の災害が日常的に発生するのが、現在の新世界なのだから。
折れた骨を庇いつつ、俺は上空を見やる。
点のように見える距離で、二人の男が殺し合っていた。
互いに魔術を撃ち合って命を奪おうとしている。
あいつらの流れ弾がきっと隕石なのだ。
そんな二人の魔術師は、彼方から飛んできたドラゴンにまとめて喰われてしまった。
ドラゴンの好物は魔力である。
魔術師の反応を察知して捕食に動いたに違いない。
とりあえず勝手に仇を取ってくれたことには感謝しておこう。
俺はひっくり返った車を元に戻して乗り込む。
エンジンは……怪しい音はするが動く。
とりあえず次の街まで持ってくれればそれでいい。
今の俺にとっては貴重な移動手段なのだ。
「さて、日没までに着くといいが」
空に浮かぶ三つの太陽を横目に、俺はアクセルを踏んだ。




