第13話 ダンジョンのヤクザと対決してみた⑥
階段を下りた先は、白いタイルだけで構成された空間だった。
幅三メートルくらいの一直線の通路が延々と続いている。
光源は見当たらないが不思議と明るく、端々に荷物やゴミが散乱しているのが分かった。
スキルが発動した感覚があるので、ここは既にダンジョンのようだ。
通路の向こうから数人のヤクザが走ってくる。
彼らはいきなり発砲してきた。
僕は階段の陰に隠れながら苦笑する。
「スマホに当てないでくださいね」
銃撃が止んだ瞬間に飛び出して疾走する。
ヤクザがすぐにリロードを済ませて発砲してくるが当たらない。
銃口の角度から射線を予測し、相手の殺意を読むことで弾を回避できるからだ。
ダンジョンの外でも同じくらいの芸当は可能だった。
「はいはーい、大人しくしてくださいねー」
距離を詰めた僕は、ヤクザの腹にナイフを突き刺した。
体内を抉りながら掻き切ると、そのヤクザはあえなく崩れ落ちた。
「死ねやコラァ!」
別のヤクザが至近距離で拳銃を向けてきた。
僕は刺したヤクザを引き寄せて盾にしつつ、拳銃を撃ち返して射殺する。
配信画面には、脳漿を撒き散らす姿がしっかり映ったことだろう。
弾切れの拳銃を捨てた僕は、短いスナップでナイフを投擲する。
ナイフは焦ってリロードするヤクザの首に突き立った。
そのヤクザは何か喚きながら倒れて絶命する。
この場で生きている最後のヤクザが殴りかかってきた。
スキルの補正でもかかっているのか、妙な威圧感を帯びている。
直撃すると面倒かもしれない。
低い姿勢で踏み込んだ僕は、拳を躱しざまに掌底を繰り出す。
狙い澄ました一撃はヤクザの顎を捉え、骨を粉砕しながら衝撃を解き放った。
頭の中を強烈にシェイクされたヤクザは、鼻血を垂らして静かに倒れる。
タイルの地面にじわじわと血が広がっていった。
追加のヤクザが来ないことを確かめて、僕はホッと息を吐く。
「ふう、カメラアングルを意識するのは大変ですね。手ブレがひどくてすみません」
『おー』
『片手で全滅かよ』
『さすが佐藤』
『まだ本気じゃないね』
『収益化したらカメラ付きドローン買おうぜ。スパチャするよ』
『それは名案』
『俺もお布施する』
なかなかに好評だった。
収益化についての話が出ているのも都合が良い。
あまりこちらから積極的に触れられる話題ではないからだ。
僕はカメラに向かって礼をする。
「貴重なご意見ありがとうございます。収益化はすぐにできると思いますので、その時はご支援よろしくお願いします」
『うむ』
『任せろ』
『素直でよろしい』
『早く貢ぎたい』
既に収益化の申請は行っている。
今回の配信も凄まじい再生数になりそうなので、まず弾かれることはあるまい。
次の配信をする頃には本格的に儲けられそうだった。