第122話 世界の終わりを始めてみた①
ボブと死屍本レイはこちらに向かって元気に挨拶をしてくる。
「よう! 首尾は上々だな!」
「全世界の皆さんこーんにーちはーっ☆ 超絶怒涛のダンジョンアイドルこと死屍本レイでーす☆」
鈴木は愕然としている。
予想外の来客に戸惑っているようだった。
「どうしてあいつらが……」
「配信の盛り上げ役が必要かと思ってな。ちょうどいいだろ」
ボブは傭兵時代のバート・スミスの戦友だ。
死屍本レイは佐藤キツネが出会った配信者である。
どちらも善悪の区別が付かない狂人で、混沌を愛する性質を持っている。
打算で動くからこそ信頼に値する。
愛とか平和よりギブアンドテイクの方が明瞭だろう。
「世界をハッキングできるようになった直後から、互いの脳にメッセージを送り合ってやり取りしてたんだ。二人には望みを叶えることを条件に仲間になってもらった」
「望み……?」
「ボブの望みは第三次世界大戦の勃発。死体が増えれば商品の仕入れも簡単になるからな。大儲けしたいんだろう」
どっしりと構えるボブは人間を背負っている。
それは運び屋サリスだった。
頭に鉄板を打ち込まれたサリスは虚ろな顔で呆けている。
ボスによってワープ装置に改造されてしまったのだ。
もはや自我と呼べる物は持っておらず、ボブの道具となり果てている。
「死屍本レイの望みは世界一のアイドルになることだ。まあ、この配信が最高の宣伝になるだろ。これから世界が壊れていくってのに呑気なもんだよな」
マイクを持った死屍本レイはさっそく演奏を開始していた。
持参の機材でオリジナルソングを熱唱している。
意外と高い歌唱力に感心していると、鈴木が手を伸ばして脇腹に触れてきた。
鈴木の顔は悪意と殺意で爛れている。
「おっ」
触れられた箇所から大量の情報が流れ込んでくる。
スキルによるハッキング攻撃だ。
どうでもいい無作為な情報が滅茶苦茶な容量で入ってきた。
脳への過負荷で殺そうとしてくるらしい。
俺は鼻血を拭いて鈴木を蹴飛ばした。
「やめとけ。無駄だよ」
若干の不快感はあるものの、脳が潰れる気配はない。
俺は首を鳴らしながら苦笑した。
「今の俺は、世界を一つのコンピューターのように捉えて接続している。どれだけ膨大な情報処理を強いられても死なんよ」
アップデート分のスキルを没収されたことで、超能力の負荷はスキルの回復で修正できなくなった。
このままでは超能力を使うたびに脳が焼き切れてしまう。
だから俺は世界に負荷を肩代わりさせてデメリットを踏み倒すことにした。
超能力の開花にあたり、一番の鬼門は脳の負荷だった。
しかし一度でも覚醒してしまえば、あとは設定次第でどうとでもなる。
現在の俺は人間の形をしているだけで、もう殺す殺さないの次元に存在しない。
鈴木はダンジョンに関するシステムの中で最強だ。
同時にバグで行動制限がかかり、全能に近いがシステムに縛られている。
対する俺はスキルから逸脱し、物理法則そのものを改竄できる。
鈴木のような縛りも皆無なので根本から規格が違う。
もはやハッキング云々の話ではなく、神の領域と称してもいい段階に至っていた。




