第120話 殺戮決戦を始めてみた⑨
メイソウで作った肉団子が蠢いている。
もはや原形もないが、まだ何人か生きているらしい。
全員が迷宮人間だから、生命力が高い者がいても不思議ではなかった。
彼らの状態をデータ化して参照したところ、間違いなく瀕死だった。
どれだけ急いで回復しても一分程度の猶予はありそうだ。
もう利用価値はないので放っておけばいいだろう。
そう思って視線を外そうとしたその時、スライムがへばり付いた大型トラックが猛スピードで突進してきた。
加速するトラックはメイソウの肉団子を轢き潰して走り去り、近くのコンビニに激突して炎上した。
それで彼らは完全に死んでしまった。
一連の事故を見ていた僕は肩をすくめる。
「……まあそういう時もありますよね」
『いやねーよ』
『やりすぎ』
『B級ホラーかよ』
『黒幕が使い捨てに……』
『インフレしすぎてつまらん』
裏世界の巨大スクリーンは、道路にめり込む形で鎮座している。
特に意識していなかったが、そのまま持ち出してしまったようだ。
脳をインターネットに接続すれば配信を確認できるものの、やっぱり大きな画面で見れるのが良い。
巨大スクリーンに向けて手を振りつつ、僕は虫の息となった鈴木に引き続き説明する。
「脳の改造で辿り着いた超能力は反則じみた代物です。その本質は既存の機能の延長戦でした」
指を鳴らすと付近の建物がぐにゃくにゃに崩れて倒壊した。
逃げ惑う人々とそれを襲うモンスターがまとめて下敷きとなった。
マンホールからは依然としてモンスターが湧き続けている。
遠くで警察が戦っている。
銃火器でモンスターを迎撃しているようだが焼け石に水だった。
彼らが蹂躙されるのは時間の問題かもしれない。
「肉体は脳の指令で動きますが、超能力はこの範囲を体外へと拡張させます。つまり手足のように世界を操作できるわけですね」
僕は指揮者のように手を動かす。
そのたびに地形が歪み、空が狂い、人間が死んでモンスターも死ぬ。
倒壊した建物の隙間から植物が伸びて世界樹を構築した。
さらに木の実が落ちて魔力を振り撒く。
街の面影がどんどん失われていった。
物理法則の改竄は多岐に渡る。
物体の座標を変えたり、離れた空間同士を繋げるのは初歩だ。
まだ僕が使いこなせていないだけで、やれることはどんどん増えていくだろう。




