第118話 殺戮決戦を始めてみた⑦
僕の告白を聞いて、真っ先に反論したのは鈴木だった。
彼は激情を露わに主張する。
「思考は常に監視していた……裏切りの予兆は、なかったッ!」
「佐藤キツネの人格領域はブラックボックスです。あなたのハッキングでも内容は読み取れません。その脆弱性を利用して、僕は不都合な思考や記憶をブラックボックスに保管してきました。あなたが裏切りに気付けなかったのはそのせいです」
僕はその場で回りながら応じる。
足を止めてから、鈴木に向けてゆっくりと手招きした。
「こっちに来てください」
「う、おっ」
鈴木が地面を引きずられてくる。
まるで見えない力に吸い寄せられるかのようだった。
二メートルほど手前で停止させた後、真上からの重力波を叩き込む。
不可視の拘束によって鈴木の肉体が軋み、勢いよく吐血した。
「う、ゴフッ……」
「仮想体でも苦痛はリアルですよね。あなたがディティールにこだわるのはよく知ってます」
これで鈴木は行動不能だ。
なけなしの力で反撃してくる可能性はあるが、フィジカル的に負けることはまずない。
ハッキングにさえ注意すれば大した脅威ではなかった。
僕はメイソウを注視し、同じように重力の拘束を施しておく。
何人かが反応しようとしたが失敗し、全員が四つん這いとなった。
「残念ですねえ。スキルによる回避や防御は貫通できるんですよ。途中で邪魔されたら嫌なので、大人しく話を聞いてくださいね」
「あなたの脳に干渉した際……違和感がありました。常人とは決定的に違う、何かが」
アビスが余計な発言をしたので、彼の重力倍率を七百倍に引き上げた。
地響きのような音を立ててアビスの体が潰れた。
血飛沫は発生せず、じわじわとその場が赤黒く染まるのが見える。
僕はアビスの残骸に苦言を呈する。
「物事には順序があるんですよ。無粋なネタバレは控えてください」
『すげー……』
『佐藤の独壇場じゃん』
『もう何が何だか』
『結局だれが最強なの?』
アビスの肉体は小さく震えていた。
重力に抗って回復しようとしているのだ。
さすがにこの程度の攻撃では死なないらしい。
まあ、予想していたので驚きはなかった。
僕はそのまま話を進める。
「では本題です。僕はどうやって鈴木をここに呼び出したのか? ブラックボックスの用途とは? すべて発表しましょう」
僕は片手を高く掲げて指を鳴らす。
音の反響に合わせて、影で覆われた世界が崩れ始めた。
上部から音もなく消滅し、現実世界の青空が広がっていく。
裏世界を展開したのは千波だった。
彼女が存在を抹消された後、鈴木が所有権を奪って維持していた。
今度は鈴木の弱体化で隙が生まれたので、僕が乗っ取って消したのである。
もう裏世界なんて必要ない……いや、邪魔なだけだった。
温かい日光を浴びながら、僕は自らの暴露をする。
「ブラックボックスで組み上げた力……それはハッキングです。ただしスキルとは違う純正の超能力ですが」




