第11話 ダンジョンのヤクザと対決してみた④
黒スーツの一人が僕を睨む。
露骨に威圧感を醸し出しながら話しかけてきた。
「てめえか、ふざけた生放送やってるってのは?」
「どうでしょう。真面目に配信活動をしているのは僕ですね」
僕はスマホで彼らが映るように位置調整をした。
当然ながらコメント欄は騒然とする。
『え?』
『ヤクザきた』
『配信見たのかな』
『盛り上がってまいりました』
『警察案件じゃん』
どういう経路か不明だが、件のヤクザに僕の配信がバレたらしい。
闇バイトを潰した件で警戒されていたのだろう。
ただのチンピラとは違う凄みを感じる。
三人とも殺人の経験もあるようだ。
僕はスポーツバッグを置いてヤクザ達を観察する。
それぞれ抜き身のドスを握って殺意を隠そうとしない。
胸の不自然な膨らみは銃を隠しているのだろう。
たぶん出し渋るだろうが、いざとなったら撃たれることも想定しなければ。
ヤクザの一人がドスをこちらに向けながら命令してくる。
「すぐに放送を止めろ」
「嫌です。ちょうど人が増えてるところなんですよ」
「おい。ぶっ殺されてえのか」
「ご自由にどうぞ?」
僕がそう言った途端、ヤクザ達の目付きが変わった。
彼らは静かに歩き出して接近してくる。
「殺るぞ」
「おう」
「迅速にな」
やがてヤクザ達は駆け出した。
一気に距離を詰めて僕を始末する気のようだ。
「仕方ないですねえ。ダンジョン前の準備運動をしましょうか」
僕は小石を拾って素早く投擲する。
小石は先頭にいたヤクザの片目に直撃した。
そのヤクザは足を止めて声を上げる。
「うがっ」
僅かな隙を見逃さず、僕は全力ダッシュから飛び蹴りを見舞う。
脳が激しく揺れたヤクザは意識を失って倒れた。
その間に別のヤクザがドスを腰だめに構えて突進してくる。
「うおおおおおおおお!」
突き出された刃を躱し、引き戻される前に手首を掴む。
そのまま無理な角度に捻りながら倒れ込むと、骨の折れる鈍い音がした。
巻き込まれて転んだヤクザは悶絶して喚く。
「いだだだだだだだだ!」
うるさいので鼻に肘打ちを食らわせる。
クリーンヒットで鼻を粉砕する感触が伝わってきた。
これで当分は痛みで動けないだろう。
起き上がろうとした直後、最後の一人が僕を踏みつけてこようとしてきた。
僕は相手の軸足を蹴り、体勢が崩れたところを引き倒す。
そして、首に腕を回して絞めてやった。
「ぐ、があっ、ああぃぁっ!」
「こんな時間に叫んだら近所迷惑ですよ」
僕は優しく諭しながらヤクザの首をへし折る。
その後、ドスを拾って他の二人にもとどめを刺した。
死体は面倒なので放置しておく。
いちいち片付けていたら配信が進められなくなってしまう。
死体の持ち物を漁っていると、公園の入り口に老人がいた。
今度はヤクザではない。
叫び声を聞いて見に来たようだ。
「こ、これは……」
「大丈夫ですよ、ご心配なく」
血だらけのドスを振ると、老人は慌てて逃げ去った。