第10話 ダンジョンのヤクザを対決してみた③
高位探索者にとって、魔術武器は欠かせない存在である。
ダンジョンの深層には、通常の武器では歯が立たない狂悪なモンスターがいるのだ。
スキル次第ではやれないこともないが、やはり装備面を充実させておくと生存率が跳ね上がる。
魔術武器の取得が一人前の探索者の証であると主張するの声も少なくなかった。
ちなみに僕は魔術武器を手に入れたら、売るか使い潰す場合がほとんどだ。
「件のヤクザは、とあるダンジョンに事務所があるようです。自然発生する魔物を番犬にしているらしく、守りはかなり強固ですね。警察も手出しできず、不落の城と呼ばれているそうです。まあ、今夜のうちに壊滅するわけですが」
僕は見せびらかした武器をスポーツバッグに戻していく。
事務所のあるダンジョンはここから徒歩数分の距離にある。
入り口は雑居ビルに地下にあり、常に見張りがいるのを確認した。
別にこっそりと侵入することも可能だが、派手に正面から突入するつもりだ。
その方が配信も盛り上がるだろう。
気分よく支度をする僕は、とあるコメントを見つけて手を止める。
『最近、行方不明のDライバーがいるんだけど、そこのヤクザに拉致されたって噂が出てる』
『なにそれ』
『マジで?』
『事件じゃん』
『流れが変わったな……』
興味深い情報提供だ。
ガセネタと思いきや、似たようなコメントが散見される。
ソースとなるページも張られており、どうやら信憑性の高い話であることが分かった。
だから僕は胸を張ってコメントに言及する。
「では行方不明者の捜索も目標に加えましょう。救出に役立てたいので新たな情報提供をお願いします」
『よしきた』
『任せろ』
『俺達で助け出すんだ』
『SNSの情報を漁ってみるか』
『俺は関連スレを巡回してくる』
リスナーも乗り気になっており、当初の不安そうな展開は払拭されていた。
事件性や人助けという大義名分が生まれたことで、すっかり配信にのめり込んでいるのだ。
この流れは非常にラッキーである。
閲覧数は加速し、コメントのペースも追い切れないほどになっていた。
僕はスポーツバッグを肩にかけて歩き出す。
「皆さんの情報を待ちつつ、僕はダンジョンに潜ります。救出するなら早めに動くべきですからね。一分一秒も無駄には……」
発言の途中、公園の入り口から足音がした。
剣呑な雰囲気で近付いてくるのは、黒スーツを着た三人の男だった。