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JDW 前編

『女性たちが手にしたものに災いは眠る』

 

 それは一か月前に始めて神楽一途の父親と弟と会うために国立図書館に訪れた時に聞いた言葉であった。

 

 一途の兄で何者かに殺された神楽和則の親友である黒崎玲が一途に残した言葉であった。

 

 正義は冬季集中講座の講義を聞きながら

「そう言えば……あれから一途さんのお兄さんの調査はどうなったんだろう」

 と呟いた。

「あの子がいるからきっと大丈夫だと思うけど」

 

 その時に神楽和則の親友であり警察庁刑事局長である立花聡とその部下の二人。

 そして、深い知識と発想を持った少女・皐月綺羅とその兄たちと出会った。

 

 一途の父である神楽進は彼らに息子である和則の死の真実の調査を依頼していたのである。

 

 正義は小さく

「きっと一途さんも知りたいはず」

 と呟いた。

 

 あの日以降に一途からその事が語れることはなかったが……きっと心の中でずっと鎮座しているに違いない。

 

『何故、兄は殺されたのか? 誰が兄を殺したのか?』

 

 正義は腕を組むと

「女性たちが手にしたものに災いは眠る」

 と呟いた。

 

 それに隣で座っていた白露真理が

「何それ?」

 と聞いた。

 

 正義はハッと我に返ると

「あ……んー、ある物を隠した場所」

 とバツが悪そうに答えた。

 

 真理は「んー」と考え

「女性に災いと言うと……パンドラの箱?」

 と告げた。

 

 正義は笑顔で「と、思った」と言い

「それともう一人……イブ」

 と告げた。

 

 真理は「ああ」と呟き

「災いの実……リンゴか」

 と告げた。

 

 正義は頷いて

「それ」

 と言い、ふっと前を見て時々チラチラと見ている講師の視線に

「……俺達見られてるみたい」

 と小声で告げた。

 

 真理は顔をしかめると

「やべっ」

 と声を零して授業に集中した。

 

 パンドラとイブ。

 箱とリンゴ。

 

 正義は授業を受けながら

「リンゴの絵の付いた箱とかあったのかなぁ」

 と心で呟いていた。

 

 その答えを帰ってきた一途はあっさりと告げた。

「まだみたいね」

 でも立花さんのことだから

「きっと兄の死の真実を見つけてくれると信じてるわ」

 

 心を抱きながら彼女は何時になく穏やかに答えた。

 

 専業主夫の探偵推理

 

 冬季集中講座と言っても土曜日と日曜日は講義が無い。

 11月の二週目の土曜日に正義は掃除ロボットトンボを動かしながら洗濯機を回し勉強をしていた。

 

 だが、頭の中では

 『箱とリンゴ』

 が駆け回っている。

 

 その謎が解けない限りきっと一途の兄の死の真相にはたどり着けないのだろう。

 だが、まだそれが示すものが見つかっていないのだ。

 

 正義は洗濯機が止まると中から洗濯物を取り出し伸ばした。

「伸ばして干さないと皺になるからね」

 そう言ってパンパンと伸ばしながらハンガーや物干し竿にかけて手際よく干した。

 

 心は最近になると

「いっくる」

 と言う言葉を覚えた。

 

 一途が仕事に行くときに

「行ってくるわ」

 と言うのでそれを覚えたようである。

 

 正義は洗濯物を干し終えると

「……心ちゃん、成長しているよなぁ」

 と言い

「来年こそ俺も頑張って合格するからね」

 一途さんに心ちゃん!

 と空に向かって一人報告をした。

 

 けれど

「やっぱり、その前に一途さんのお兄さんのことを解決したいよね」

 と呟いた。

 

 その時、携帯が震えた。

 白露真理からの着信であった。

 

 正義が応答に出ると彼は

「悪いな、今日暇か?」

 と声をかけてきた。

 

 正義は「う~ん」と唸り声を零すと

「洗濯と掃除は終わったけど」

 と答えた。

 

 真理は良いのか悪いのか分からない返答に

「いや、忙しかったら良いんだ」

 俺もお前も予備校生だし

 と答えた。

 

 正義は息を吐き出し

「それが、話を聞いてくれる?」

 と聞いた。

 

 真理は頷きながら

「ああ、いいぜ」

 と答え

「文京の駅で待ち合わせでも良いか?」

 と聞いた。

 

 正義は頷いて

「ああ、ごめんね」

 その時に真理の用事も聞くから

 と答えた。

 

 正義は携帯を切ると鞄に一応勉強用のノートと本と筆記用具を入れると家を出て文京駅へと向かった。

 

 三ノ輪から東都電鉄の文京駅までは乗り換えはあるが時間はそれほどかからないのだ。

 

 30分程で文京駅の改札に辿り着きそこで待っていた真理と落ち合った。

 真理の家は成城学園前駅で文京までは東都電鉄で一本。

 しかし、それになりに時間はかかる。

 つまり30分乗ったままか、こまめに乗り換えるかの差であった。

 

 正義は真理と共に文京駅を出ると連絡通路で繋がっているショッピングモールの中にあるファーストフード店に入りそれぞれ飲み物と軽食を頼んだ。

 

 最初に口火を切ったのは真理であった。

「で? 何を悩んでいたんだ??」

 

 正義は「あ、俺から言っていいの?」と聞き返した。

 

 真理は頷いて

「いいぜ」

 俺の話は大したことないからな

 と答えた。

 

 正義は頷いて

「この前言っていた『女性たちが手にしたものに災いは眠る』の事を悩んでた」

 と告げた。

 

 真理はサンドイッチを食べながら

「ああ、パンドラとイブ……箱とリンゴな」

 と答えた。

「それが見つかってないのか?」

 

 正義は頷いて

「ああ、リンゴの絵の付いた箱とか……リンゴの木でできた箱とか?」

 あればきっと見つかっているんだろうけど

「見つかってないってことはあると思っていた場所に無かったのかなぁって」

 と呟いた。

 

 真理は腕を組むと

「なるほどな」

 と言い

「まあ、思っていた場所に無かったか、既に誰かが持ち去ったか、もしくはその発想が間違っていたかだな」

 と告げた。

「パンドラとイブと思っていたけど違っていたとか」

 そもそも箱とリンゴじゃなかったとか

「そのさ、絶対に手掛かりがある場所に違いなかったのか?」

 俺はその辺り全然分からないから何とも言えないけどな

 

 正義は悩みながら

「国立図書館に関連する人の死に関連するモノを隠したんだけど」

 その言葉を残した人はその亡くなった人が常に使っている建物の中でその人の兄妹に言い残しているんだ

「もしリンゴの絵の箱とかリンゴの木の箱ならそこにあると思う」

 全く想像もできない場所だったらその言葉をそこに残した意味がないだろ?

「そもそも探せないし」

 と答えた。

「だけど、箱とリンゴが間違っていたと考えると……」

 

 そう考えかけて正義はハッとすると

「あ、それより、真理の要件は?」

 と聞いた。

「俺の長くなりそうだし」

 

 真理もハッとすると

「お、おお」

 と答え

「実はさ」

 探偵事務所を作らないか? って思って

「探偵はお前」

 俺はアシスタント兼雑用

 とニッと笑った。

「曾祖父はさ小説家だったから結構自由人だったみたいで『好きな道を進めばいいよ』って感じの人だったんだけど」

 祖父と親父は反動で『あの人は特別な人だったから自由人でもいいが』って

「何かちゃんと足がかりがないとって」

 

 正義は驚きながら

「そうなんだ」

 と言い

「確かに俺の父と母も大学には出て……って言ってたけど」

 まあ軒並み落ちて飛び出したから今は自分の良いと思う道をって思ってくれてる

 と告げた。

 

 真理はふぅと息を吐き出し

「まあ、それで正義は将来探偵になるって言っていたから丁度いいなぁと思ってさ」

 事務所っていう箱だけ作っておいて大学出たら運営を始めるって感じで

「道筋を立てておいたら親父も渋々でも黙ってくれるかと思ってさ」

 そうでないと

「『お前のような放蕩息子は縁を切って骨も拾わせないし財産も渡さない』って言われそうでさ」

 財産は良いけど一応親父のこと嫌いじゃないから葬式くらいはなぁ

 とぼやいた。

 

 正義は困ったように

「へぇ……真理も違う意味で大変だね」

 と呟いた。

「まあ書類上の話だけならいいよ」

 ちゃんと稼いでから事務所作ったり形になるけど

 

 真理は笑顔で

「あ、事務所と書類上の手続きは俺がする」

 そういう仕事が得意な奴がいるからな

 と頷いた。

 

 正義は悩みながら

「でも事務所構えたりすると資金が必要だよね」

 俺は今一途さんにおんぶにだっこだから

 と呟いた。

 

 真理は笑って

「気にしなくて良いからそこは」

 と言い

「じゃあ、社員二人の探偵事務所な」

 と告げた。

 

 正義はコクコクと頷いた。

 

 真理はそれに

「マジで気にするなよ」

 大体骨を拾うとか拾わないとかさぁ

「親父も俺の事余程信用してねぇっていうか」

 と肩を竦めた。

 

 正義は苦笑して

「あ、そう言えばそうそう」

 イブのリンゴ……つまりアップルには喉仏って意味もあるんだ

 と言い

「イブが楽園を追放された理由としてはそっちの方の意味らしいって説も……」

 と説明しかけて言葉を止めた。

 

 真理は目を見開いた正義を見て

「ん? どうした正義」

 アップルに喉仏って意味があるってことだろ?

 と言い

「ん?」

 と呟いて

「それって……まさか」

 と顔を見合わせた。

 

 正義と真理は同時に

「「墓!」」

 と指をさして告げた。

 

 正義は頷いて

「そうなんだ」

 喉仏って意味なら喪主が余程のことが無い限り最後に壷に収める骨

「その壷を収めている場所」

 と呟いた。

 

 真理は腕を組むと

「そりゃ、見つからないだろ」

 と告げた。

 

 正義は立ち上がると

「ごめん、付き合ってくれるかな?」

 と聞いた。

 

 真理は頷いて

「勿論」

 と答えた。

 

 正義は携帯で一途に連絡を入れると13年前に殺された彼女の兄の神楽和則の墓の場所を聞いた。

 

 真理もまた携帯を入れると従者を呼び車で正義と共にその墓の場所へと向かった。

 

 そこに、国立図書館の新館別棟で出会った立花聡と皐月綺羅と言う少女と青年たちが墓を開けようとしていたのである。

 

 皐月綺羅は正義を見ると

「……神楽正義」

 と名前を呟いた。

 

 正義は彼女がここに辿り着いたのだと理解すると

「君も気が付いたんだ」

 皐月綺羅ちゃん

 と答えた。

 

 彼女は笑み

「ということは、お前も気付いたのか」

 と返した。

 

 薄い髪が陽光に解け、強い意志を持った大きな瞳が正義を見つめている。

 肌は白く整った容貌は正にビスクドールに負けない愛らしさと綺麗さであった。

 が、正義は心で

「やっぱり……ギャップが凄いよね」

 と突っ込んだ。

 

 真理は戸惑いながら

「おい、正義」

 今あの子が『お前も気付いたのか』って言った?

「は? え?」

 と呼びかけた。

 

 見た目美少女なのに言葉が悪い。

 

 正義は苦笑して

「彼女は名探偵だよ」

 凄い知識と発想を持っている

「ここに辿り着いたんだから」

 と答えた。

 そして、真理を紹介したのである。

「あ、彼は白露真理くんで俺の友達兼相棒です」

 

 立花聡はハッとすると

「……白露家の」

 と呟いた。

 

 そう、白露家は大御所の大資産家である。

 

 真理は笑みを深めると

「あ、俺はただの次男で予備校生なもので」

 と答え

「どうぞ続けてください」

 と告げた。

 

 立花聡は頷くと

「では」

 と言い墓石の前の蓋に手をかけた。

 

 彼もまたずっと探していたのだ。

 恐らく正義よりもずっとずっと先に。

 

 正義は彼が

「和則、玲……お前達の知った秘密を教えてもらうぞ」

 と呟き中を開ける様子を見つめ笑みを浮かべた。

 

 中からはA4の書類の入った箱が見つかりここが正解だったのだとはっきりしたのである。

 

 同時に正義はきっぱりと

「俺もその中身から導き出される答えを一緒に見つけたいと思います」

 と進言した。

「それを一途さんに伝えたい」

 お兄さんの死の真実を伝えてあげたいと思います

 

 そう告げた。

 

 彼女がずっと心の中で抱いていたしこり。

 待っていた真実を探して見つけたいと思ったのだ。

 

 箱を手に全員が国立図書館の新館別棟へと戻り神楽和則の部屋で開封したのである。

 その中には『JDW』という過激派組織の逮捕劇で捕らえられた人たちの調書と裁判記録などのコピーが入っていたのである。

 

 JDWというのは以前に国立図書館の新館別棟を爆破しようとして点検会社を買収した組織であった。

 

 正義はそれを見て

「まさか、あの時の爆破未遂事件は……この書類があると思ってのことだったとか?」

 と心で呟いた。

 

 書類は幾つかの人物と関連のある記事などが纏められておりその中の一枚に『上条節子』という人物のモノがあった。

 

 それを立花聡が手にすると

「……これは……やはり……」

 と呟いた。

 

 その女性はJDWの中でもただの事務員で執行猶予の判決で済んだ人物であった。

 それほど重要な人物ではないようであった。

 が、立花聡は厳しい口調で

「……父の母親だ」

 風呂場で急死してもういないが

 と告げた。

 

 そう現警察庁刑事局長の父親の母親。

 つまり彼の祖母ということだ。

 一緒に留められていたのは彼女の夫である『まゆずみ群司』の調書である。

 つまり彼の祖父ということだ。

 

 正義は彼に近寄り

「もしかして、そのまゆずみ群司と言う人は……まゆずみグループの総裁だった人では」

 と告げた。

「政財界に人脈を持っていて会社を急拡大した」

 

 まゆずみグループという会社はまゆずみ群司という人物が一代で急成長させた巨大企業グループであった。

 つまり財界では名の通った人物である。

 

 立花聡はまゆずみグループの御曹司ということだ。

 その彼が何故警察庁刑事局長になったのかはある意味において不思議であった。

 

 ただ、と正義は

「でも数年後に奥さんを亡くして少しして事故死したとか」

 と付け加えた。

 

 それに彼と一緒にいた部下の刑事が記事の一束を差し出した。

「これですね」

 

 まゆずみグループの総裁夫人の変死の記事と総裁自身の事故死の記事であった。

 その他にも多くの記事が一緒に留められていた。

 

 それに皐月綺羅が一枚を手にすると目を細め

「これらの記事の事件を調べろということだ」

 と告げた。

 

 そこには神楽和則だけではなく様々な事件のモノがあった。

 恐らくそれらも全て繋がっているのだということなのだ。

 

 しかもそれらの事件の犯人は見つかっていない様子であった。

 所謂コールドケースだ。

 

 正義は立花聡が手にしている記事に目を向け

「その火事も迷宮入りしているんですよね」

 と言い、固唾を飲み込むと

「もしかしてこれらの記事の事件や事故は……全て迷宮入りしているってことじゃないのかな」

 と呟いた。

 

 真理もパラパラと何枚かを見て

「かなりの数だけど」

 調べないとだな

 と告げた。

「力になるぜ」

 これはもしかしたら俺も無関係って訳じゃないかもしれないからな

 そう告げた。

 

 真理の曾祖父の兄とその親友……曾祖父の師がかつてJDWに襲撃された催しに参加していて命を落としているのだ。

 そのJDWが今尚活動しているとしたら他人事ではなかった。

 

 正義は一途の兄の死の真実を。

 真理は曾祖父の兄や曾祖父の師を襲った組織のその後を。

 

 ……放置することはできなかった……

 2人にとって想定外の関連ある出来事へと繋がっていたのである。

 

 立花聡に皐月綺羅、そして、正義に真理と役割分担を決めて調べることになり二人はまゆずみグループと当時の政財界で関わった人間について調べることになった。

 

 正義は一般家庭なので一般的な知識しかなかったが真理は家が政財界に通じる資産家白露家である。

 

 真理は正義を見ると

「なるほど、餅は餅屋か」

 まあ、政財界にまゆずみグループは実家の得意分野だ

「正義と一緒に集められる」

 と笑顔を見せた。

 

 正義は笑顔で

「ありがとう、真理」

 と頷いた。

 

 立花聡とその配下の刑事に皐月綺羅と彼女の兄たちとそれぞれが調べることを決めて別れたのである。

 

 情報を集めて11月18日情報を集結させようということであった。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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