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疑惑の事故

 最近、心が言葉らしいものを口にするようになった。

「ぱー」

 

 神楽正義は自分に手を伸ばして「ぱーぱー」という心を抱き上げると

「そうだよ~」

 パパだよ

「これからお散歩行こうか」

 心ちゃん

 と頬にキスを落とした。

 

 日曜日でも一途は仕事へ行き、今日も正義は家事をしながら心と一緒に過ごしていたのである。

 

 長閑なノンビリとした一日。

 だが、そこへ渡井静子が姿を見せた。

「ごめんなさいね、神楽君」

 

 彼女はそう言うと

「いま暇なら少し付き合ってほしいの」

 と告げた。

 

 正義は頷くと

「心ちゃんと散歩しようと思っていたので」

 と笑顔で答えた。

 

 静子が案内した場所は公団から少し離れた住宅街の道路であった。

 そこに一人の青年が待っていた。

 

 彼の名前は相庭静一と言い正義と同じ21歳で大学生であった。

 

 専業主夫の探偵推理

 

 静一は頭を下げると

「初めまして、あの」

 と言い

「貴方が凄腕の探偵さんですか?」

 と問いかけてきた。

 

 正義は心を抱っこ紐で抱っこしながら

「あ、え」

 探偵ではないですけど

 と答えた。

 

 静子はにっこり笑うと静一を見て

「でも、この前も暗号を解いたのよ」

 だからきっと力になってくれるわ

 と告げた。

 

 静一は笑むと

「そうですか」

 と言い

「実は弟が事故にあって」

 と話し始めた。

 

 三日前に彼の弟である相庭政次がクラブ活動の帰宅時に今いる場所で車に跳ねられて現在意識不明の状態だということであった。

 

 静一は写真を出すと

「一応これが事故後の写真で……その……こっそり撮ったものなので写りは悪いですが」

 運転していた人がそこの脇道からこの坂道に弟が急に飛び出したので避けられなかったと

 と言い

「だけど、それは違うんです」

 と告げた。

 

 正義は冷静にそれを聞き写真を受け取りながら

「理由は?」

 と問いかけた。

「そう思う確実な理由があるんですよね?」

 

 静一は頷いて

「弟は俺に電話を入れていて」

 友達に会わないといけなくて待ち合わせ場所で待ってるから遅くなるって

 と告げた。

 

 正義は写真を見ながら

「それは……その後の帰宅の時に事故とかではないんですか?」

 と問いかけた。

 

 静一は首を振り

「電話を掛けてきたのが4時50分ごろでその直ぐあとに事故にあっているんです」

 場所も弟が言っていた場所と同じなので待っている最中に車に跳ねられたと思ってます

「きっと弟は友人に嵌められたんだと思います」

 と告げた。

「2日前から悩んでいる様子だったし……俺に大変なものを見たって言っていたし」

 

 正義は少し考えて

「あの、その話を警察には?」

 と聞いた。

 

 静一は頷いて

「言いましたが、関係ないだろうって」

 ちゃんと事故の通報もしてきたからそう言う疾しいことがあればしてこないだろうって

「聴取にもちゃんと答えていたって」

 と告げた。

 

 正義は頷いて

「わかりました」

 と答え

「あの、幾つか聞きたいことあるけど良いですか?」

 と問いかけた。

「一つはその友達の名前」

 もう一つは事故を起こした車の種類とか事故の詳細を

 

 静子は正義を見て

「信じてあげてくれるの?」

 と笑顔で聞いた。

 

 静一も息を飲み込んで正義を見た。

 正義は写真を見ながら

「俺も自信はないし絶対そうだとは言えないけど」

 この写真にはおかしいところがあるから

「調べる価値はあると思う」

 と告げた。

 

 それに静子と静一は目を見開いた。

「「?」」

 

 正義は写真のブレーキ痕を指差し

「このブレーキ痕が当たった後少し時間を置いて掛けられてる」

 普通はもっと手前で痕が残るんだ

「多くの同じような事故事例では」

 と告げた。

 

 静子はん~と考えながら

「ずっと不思議だったんだけど」

 その聞いてもいいかしら?

 と聞いた。

 

 正義は不思議そうに

「はい?」

 と静子を見た。

 

 静子はじっと正義を見て

「神楽君、大学の学部……何を専攻しようと思ってたの?」

 と聞いた。

 

 正義は少し視線を逸らせたものの

「法学部です」

 と答えた。

「弁護士になろうかとおもっていたんですけど」

 でも何処か自分に向いていない気もしていて

「結局、受けた大学全て落ちてしまったんですが」

 そう言って苦く笑った。

 

 静子は「そうか」というと

「ごめんなさいね、言いづらいこと聞いちゃって」

 と告げた。

 

 正義は笑って

「いえいえ」

 今は心ちゃんとこうやっているの楽しいので

 と胸元でスコスコ寝ている心を見ながら答えた。

 

 静子は心の中で

「なるほどね」

 でも神楽君は弁護士よりは探偵ね

 と呟いた。

 

 正義は静一を見て

「先の2点ですが」

 と告げた。

 

 静一は頷いて

「すみません」

 その友人の名前については聞いていなくて

「車の詳細についても警察は教えてくれなかったです」

 と告げた。

「実はこの写真はこっそり写メで撮ったんです」

 

 正義は腕を組んでハッと静子を見ると

「あの、武さんと久守さんに先日の貸しを返してもらってもいいですか?」

 と告げた。

 

 静子はにっこり笑うと

「もちろん!」

 返させましょう

 と答え、携帯を手にした。

 

 少しして武と久守晴馬がパトカーに乗って姿を見せた。

 武はジト目で静子を見て

「……伯母さん……俺は刑事で便利屋じゃないんだけどな」

 と告げた。

 

 正義はそれに

「すみません、俺が頼んだんです」

 と頭を下げた。

 

 晴馬は首を振り

「いえ、確かに先日の暗号を解いていただいたことは大きいことなので借りは返します」

 と答えた。

 

 武は溜息を零して

「そうだな」

 と言い

「それでここでの事故の話だな」

 と告げた。

 

 正義は静一から写真を借りると

「これを見てください」

 とブレーキ痕を指すと

「おかしくないですか?」

 と聞いた。

 

 武は目を細めて

「ブレーキを踏むのが遅すぎるってことか」

 と呟いた。

 

 晴馬はそれに

「しかし、そう言うこともあるかと思いますが」

 と告げた。

 

 正義は立っている場所を見回して

「例えば大きなカーブでの死角による事故」

 夜の視界不良の事故

「そう言う場合は得てしてありますが」

 と言い

「しかし、ここは見通しの良い坂道で時間も夏の4時から5時なら十分明るい」

 条件が……合わないんです

 と告げた。

 

 武はフムッと考えると

「確かにそうだな」

 と言い

「余程のスピードで突っ込んで跳ねたか」

 轢いたことを確認して止めたか

 とチラリと晴馬を見た。

 

 晴馬は頷いて

「そう言うことなら」

 何が必要ですか?

「神楽……正義さん」

 と告げた。

 

 正義は考えながら

「先ず事故の詳細。調書を取っていると思うのでその全てを」

 と言い

「それからこの周辺……と言ってもこの道に繋がるところだけで良いので防犯カメラの映像を」

 と告げた。

 

 武は「わかった」と答え

「防犯カメラの映像は少し時間をくれ」

 と言い

「調書のデータは久守のノートパソコンからアクセスできるから直ぐに見れるだろう」

 だが早々見せれるものじゃないからな

 と告げた。

 

 正義はハッとすると

「あ、あともう一つ」

 と告げた。

 

 それには静一と静子と武と晴馬全員が「「「「ん?」」」」と顔を向けた。

 

 正義は頷くと

「事故が起きる5日から前日の間で……この近隣」

 と静一を見ると

「えーと、相庭さんの弟さんの学校と家はこの近隣だよね?」

 と聞いた。

 

 静一は頷くと

「あ、はい」

 区立第三高校で家はこの坂を下って10分程歩いたところに

 と告げた。

 

 正義はフムフムと頷き

「弟さん事故前一週間は寄り道とかはしてないですよね?」

 と聞いた。

 

 静一は「はい」と答えた。

 

 正義は「じゃあ」というと

「区立第三高校とこの坂の下の住宅街を含めた近隣で何か事件が起きてないかを教えてください」

 と告げた。

「犯人が捕まっていないものを」

 

 静子は首を傾げながら

「どうして?」

 と聞いた。

 

 正義はそれに

「静一さんが弟さんは二日前から様子がおかしくて『大変なモノを見た』って言っていたし」

 そのことで友人に会わないといけないって言っていたとしたら

「何か人に知られて困ること……可能性としては犯罪かなぁと思って」

 と答えた。

「例えば偶然犯罪を見てその犯人が友人だったので話をしようと会う約束をした」

 そう考えたら落ち込んでいて友達に話をするという弟さんの行動は一つに繋がるかなぁと思ったんです

 

 晴馬は「なるほど」と呟き

「わかりました、それも調べましょう」

 と答えた。

 

 武は「そうだな」と言い

「じゃあ、先に調書を見ておいてくれ」

 伯母さんの家でいいだろ?

 と告げた。

 

 静子は笑顔で

「もちろんよ」

 と答えた。

 

 5人は車で静子の家へ移動し武だけ残りの周辺の防犯カメラの情報と未解決事件の情報を回収しに警察庁へと戻った。

 

 正義は胸の中で眠っている心を降ろして静子が用意した布団に寝かせるとオムツの中を調べて

「うん、大丈夫」

 濡れてない

 というと晴馬が開けたノートパソコンの前に座った。

 

 そして、警視庁のデータベースにアクセスして事故の調書を見た。

 通報してきたのは『滝本耕造』24歳の男性。

 彼の乗っていた車が坂道の途中で脇道から飛び出してきた高校二年生の『相庭政次』を撥ねて警察へと連絡。

 警察が到着して救急車を呼び意識不明のまま病院へと運ばれた。

 

 正義はそれを見て

「車は赤のセダンか」

 と言い

「武さんを待つしかないか」

 と呟いた。

 

 それに晴馬は

「正義さんは調書を読んでもこの事故は事件と」

 と聞いた。

 

 正義は頷いて

「調書を読んで確信しました」

 と答え

「救急車より先に警察を呼ぶのはおかしいですよね」

 と告げた。

「でもそれだけだと証明できない」

 

 静子は心を見ながら小さく笑みを浮かべた。

 静一は小さく固唾を飲み込みながら正義を見つめていた。

 

 弟が跳ねられた理由と真実が彼によって分るかもしれないのだ。

 

 武が戻ってきたのはそれから2時間後であった。

 武は部屋に入るとDVDと書類を持ってきた。

「このDVDは坂の上にあるコンビニの防犯カメラと坂の下のマンションの防犯カメラの映像だ」

 それからこれが言っていた一週間以内に起きた周辺の事件

「同一犯と思われる家宅侵入の窃盗事件が起きていた」

 

 正義は頷いて

「ありがとうございます」

 と受け取り、先ずDVDをノートパソコンで再生した。

 

 坂の上のコンビニの防犯カメラの映像は事故の前後4時間の合計8時間の映像であった。

 反対に坂の下のマンションの防犯カメラの映像も同じ長さであった。

 

 滝本耕造の赤いセダンがコンビニに到着したのは事故を起こす1時間前であった。

 そこで飲み物を買い車の中で座っていた。

 

 武はその段に至って

「……確かにおかしいな」

 と言い

「一時間も前に居てコンビニの駐車場で時間を潰しているのがな」

 と目を細めた。

 

 そして、車は事故の直前に出発して坂を下った。

 

 マンションの防犯カメラにはパトカーが走っていく様子が写り、その後救急車が向かっているのが写っていた。

 

 正義は武が持ってきた書類を手に

「窃盗事件が起き始めたのが三か月前か」

 三か月で12回一週間に一回の割合か

「それで……事故の3日前にも窃盗事件が起きているんだ」

 と言い、書類の中にある地図を見ながら

「時間は夕方の4時から5時の間で場所はここか」

 と静一を見た。

「この家の場所は弟さんの帰宅時の道に重なりますか?」

 

 静一は見せられた地図を見て

「確かに、俺も通っていた道だから此処通ります」

 と告げた。

「正確な時間は分かりませんが……可能性はあるかも」

 

 武と晴馬は顔を見合わせた。

 

 正義は二人を見ると

「明らかに滝本耕造の行動はおかしいですし」

 救急より先に警察を呼ぶのも変です

「後は窃盗事件……ですがそれは政次さんの友人から落とした方が良いかもしれません」

 と告げた。

 

 武は「それは」と呟いた。

 

 正義は冷静に

「通話記録を調べてください」

 一つは政次くんの一週間分を

「もう一つは滝本耕造の一週間分を」

 特に事故前の通話者を調べてください

 と告げた。

 

 武と晴馬は頷いた。

 

 武は正義を見ると

「事故に関しては再調査する」

 それから窃盗事件に関しても滝本との関係を調べ直すことにする

「窃盗事件の遺留指紋が幾つか出ているからな」

 照合すればわかるだろ

 と告げた。

 

 そして、二人は静子の部屋を出て警察庁へと戻った。

 静一は安堵の息を吐き出し、涙を落とした。

「ありがとうございました」

 調べ直してもらえるだけで

 

 正義は目を覚まして「ふぇぇん」と鳴き始めた心を抱っこしながら

「早く政次君が目を覚まして欲しいですね」

 と告げた。

 

 静一は頷い

「はい」

 と答え

「弟に報告してきます」

 と告げた。

 

 静子は頷いて

「きっと目を覚ますわよ」

 と告げた。

 

 正義は笑顔で静一を見送った。

 そして、心を連れて一階下の自宅へと戻った。

 

 静子は正義を見送りながら

「ね、神楽君は弁護士よりは探偵に向いてると思うわ」

 と言い

「これからも武を助けてあげてね」

 と頭を下げた。

 

 正義は慌てて

「いえいえ、俺の方が助けてもらってます」

 と答えた。

 

 静子は笑って

「武が事件を解決できているのは神楽君の助言のお陰なのに」

 と心で呟いた。

 

 翌日、滝本耕造と区立第三高校の二年生の生徒を含めた5名ほどが取り調べを受けて窃盗を繰り返していたことが判明した。

 滝本耕造が指示役で他の3人を脅して同行させていたことが判明したのである。

 

 そして、自首を勧めようとした相庭政次の口封じをするつもりで事故を装ったのである。

 政次の友人は始め拒否していたが滝本耕造に個人情報を握られ脅されたために従うしかなったのであった。

 

 現在は強く後悔して全て洗いざらいを自供したのである。

 同じ日に静一から彼の弟の政次が目を覚ましたことが静子へと知らされたのである。

 

 正義はそれを静子から聞き安堵し、何時ものように夕食と風呂の用意をして帰宅した一途を出迎えた。

「お帰り」

 心ちゃんがパパって言ってくれるようになったんだ

「一途さんのこともママって言ってくれるようになるよ」

 歯も生えて人参もちゃんと食べるようになったんだ

 

 一途は靴を脱ぎながら

「そう」

 と短く答え、不意に

「……正義君は嫌じゃない?」

 と聞いた。

 

 正義は不思議そうに一途を見ると

「何が?」

 と返した。

 

 一途は正義を見つめ

「心の面倒とか家事とか……押し付けられてるの」

 と告げた。

 

 正義は笑むと

「俺は嫌じゃないけど?」

 最近は色々知り合いの人も増えて楽しいよ

 と答えた。

「ただ、これからのことも考えようとは思ってる」

 前にも言ったけど

「受験に失敗して逃げたままじゃなくて……何かにチャレンジしようと思ってる」

 もちろん心ちゃんとこの家の事はする

「それは俺が決めた役割だから」

 

 一途は静かに笑むと正義を抱き締めた。

「優しいね」

 ありがとう

「ごめんね」

 

 正義は真っ赤になりながらそっと抱き締め返して

「俺の方こそ」

 ありがとう

 と囁いた。

「一途さんはゆっくりでいいよ」

 ゆっくりで良いから心ちゃんを受け入れてくれたら嬉しいな

 

 一途は目を閉じると

「そうね……私も逃げてばかりじゃダメなのかもしれないわね」

 と返した。

 

 正義は笑顔で

「一緒に歩いて行こう」

 一途さんには俺と心ちゃんが付いているから

「忘れないで欲しいな」

 と告げた。

 

 一途は小さく頷いた。

 

 きっと、こんな安堵感は他の人では味わうことができない。

 特別な人なのだ。

 

 一途は小さく

「これが、家族なのかな」

 と呟くと正義の包み込むような温かさに身を浸した。

 

 外では夜空に月が輝き地上を優しい輝きで浮かび上がらせていた。

 


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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