屋根裏のブラック・サンタクロース
クリスマスの朝。
雪に閉ざされたとあるペンションで、死体が見つかった。
死体は頭部に麻袋を被せられ、首に掛けられたロープで数メートルはある吹き抜けのホール天井付近まで吊り上げられている。
「ロープは屋根裏の梁に杭で固定されていました」
「いったい、誰がこんなことを」
ペンションのバイト二人は青褪めた顔で途方に暮れている。
「……屋根裏のブラック・サンタクロースじゃ」
オーナーの老人が言う。
「子どもの頃、聞いた話じゃ。屋根裏にはブラック・サンタクロースがいて、クリスマスに悪い子を麻袋に詰めて連れ去るという」
宿泊客の一人がヒステリックな声をあげる。
「い、いるはずないでしょ、そんなの! そのおとぎ話に見立てた殺人よ、これは!」
「けど、人をあんな場所まで吊り上げるような力がある人なんてこの中には……」
吊るされているのは宿泊客のスキーインストラクター。
大柄で筋肉質な男性で、体重八〇キロ以上はあるだろう。
一方で他にペンション内にいるのは女子大生三名の宿泊客と、年老いたペンションオーナーの男に、バイトの若い女性が二人――。
「だからって……そんな怪物が実在するなんて……」
「……何とかあそこから下ろせないか、道具を探して来る」
静かに告げると、オーナーは地下の用具室へ向かった。
*
用具室の扉を開けると、目の前に黒いコートのフードを目深に被った若い男が立っていた。
「……人の名前騙るのは良くねえな、爺さん」
見知らぬ男を前に、オーナーは不思議と落ち着いていた。
「老いたわしに、あの大男を吊り上げるような力があると思うのか?」
「屋根の雪かきはあんたの仕事だってな。夜中の作業は危険だぜ、爺さん」
「……」
「眠らせた男の首にロープを括りつけ、屋根裏の梁にかける。ロープの端にソリでも括りつけて屋根の上に出しときゃ準備完了だ。ソリにあの男相当分の雪を乗せて屋根から落とせば、男の身体は一気に天井まで引き上げられるって寸法だな。あとはロープを杭で梁に固定するだけだ」
「……」
「まあ、あの大男はあんたの娘を騙して自殺に追い込んだ悪い子だ。遅かれ早かれブラック・サンタクロースが連れ去っていただろう。だが人を殺した悪い子も、見過ごすわけにはいかねえんだよ」
「……ブラック・サンタクロース……本当にいると分かっておればのう」
「気の毒だが、これも俺の仕事でね」
オーナーの頭部に麻袋が被せられた。
「……メリー・クリスマスだ」
なろうラジオ大賞4 応募作品です。
・1,000文字以下
・テーマ:屋根裏
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