気長な計画
「さあ、いよいよだ」
私は目の前の宇宙船を見つめそう呟いた。
まったく、人間って奴は可能性の塊と言うか
為せば成るというか、とにかく私はやりとげた。
ニュートンは落下する林檎を見て閃いたというが
私はその昔、ただ道を歩いていただけで
設計図、その完成像が鮮明に頭に浮かび上がったのだ。
そう考えたら私のほうが天才・・・・・・とは言うものの
完成するまで大分時を要し、もうこんな老人になってしまった。
正解を知っているパズルを組み立てるようなものだったが
何せ中々材料が揃わず、その多くを自作しなければらなかったのだ。
しかし、確信がある。
この宇宙船は必ずやこの星から飛び立つことができる。
一人乗りだ。未練はない。
金は必要だから仕事をやめはしなかったが
人付き合いそっちのけで取り組んでいたので友はおらず
妻と子は私にあきれ、とうの昔に家を出ていった。
だが、どうでもいい。いくら説明しても理解できないだろう。
そもそも、どうにも人に言う気がなれず
結局、この偉大なロケットも誰の目に触れることはなかったが
まあ、話したところで嘲笑されるか、危ないからやめろと止められていただろう。
もしかしたら、横取りされていたかもしれない。
まあ、設計図はネジの一つにいたるまで私の頭の中にあるのだがな。
さて、地球の諸君。ここでお別れだ。
とは言うものの見送りは野良猫くらいだが
では安全のために備え付けのヘルメットに頭を固定してと・・・・・・発進!
お、お、おおおお!
いいぞ!
この上昇していく感覚! 完全に成功だ!
はっはあ! 私はやはり天才だ! 天才だったのだ!
大成功だ! さらば地球! さらば人類!
・・・・・・さて、そろそろこのヘルメットを外して窓から
小さくなっていく地球の姿でも見よう。
何せこのヘルメット。真っ暗で何も・・・・・・あれ?
おかしいな。外れないぞ。
なんだ? 設計ミスか?
そんなはずはないと思うのだが。
うう、首が抜けない・・・・・・。
まあ、気長にやるか・・・・・・。
安全のため、目的地に着くまで外れないのかもしれん。
私が作ったのにその仕組みがわからないなんて全く妙な話だ。
それに・・・・・・今更だが目的地はどこだ?
コンピューターの自動操縦だから心配はいらないと思うが・・・・・・。
・・・・・・まあ、どこでもいいさ。きっと素晴らしい場所に違いない。
そんな気がする。まるで導かれているように。
「いよいよです! 長きに渡りこちらから送った電波に誘導され
惑星探査機がこの星に降りようとしています!
我々は今、予定地点の近くから中継を・・・・・・ああ! 空に! 見えてきました!
大気圏でそのほとんどが燃え尽きていますが
宇宙局の話によると情報を司る貴重な部位は保護されているとのことです」