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煉獄の森~EZAM~  作者: 結城朔夜
28/31

vision:ⅩⅩⅦ 水鏡~閉ざしたはずの過去への鍵~

闇の先に招く彼女に誘われ

辿り着いた場所で観たものは

あまりにも無慈悲で残酷で


閉ざしたはずの

過去だった………

空間の裂け目に入り目にした光景は、一面斑模様の空間。

そして、少しでも気を抜けば一瞬にして浸食されるであろう、濃い瘴気が漂っていた。


「こんな場所………本当に通って大丈夫なのかな?」

「わかりません。ですが、ここしか行き場所を用意していないみたいですので、とりあえず進みましょう」

「………気を抜かないように、気をつけて」

「………分かってる、けど」

「………」

「七海さん、あまり急いでも状況は変わりませんよ。落ち着いて行きましょう」


先頭をゆく七海は何も言わずに、ひたすら導かれた道を進んで行く。

まるで何かに引き寄せられているかのように、七海はただただ足を進めていた。

明らかに、焦っているのが見てわかるが、状況を考えればわからなくもない。

この時の為に、七海は必死に生き抜いてきたのだから。


―――絶対に、仇をとってやる。


その一心で、七海は先を急ぐように進み続けた。


そんな七海の想いを仮宥愛は気づいているかのように、普段と変わらぬ優しい眼差しで、けれど周囲に警戒しながらも、七海の後を追う。

その後を私と結翔が並んで進み、やがて遠くに黒い点のようなものが視えてきた。

歩みを進めていくと、其れはこの空間に入ってきたときと同じような空間の裂け目で、ぼんやりとした明かりも視える。


空間の裂け目をくぐり抜けると、松明が焚かれた通路に出た。

長く続くその通路を照らすように、松明が点々と焚かれて、その先におそらく魔女が待っているのだろう。


「………行きましょう、この先に彼女はいるはずです」


仮宥愛の言葉に、皆が視線を合わせて頷き、再び歩き出した。

例に倣ってまた七海が先頭と歩き出す。

その表情は、どことなく緊張しているかのように強ばっている。


「………」


声を掛けた方が良いのかと思うが、言葉が見つからない。

そのまま私たちは無言で歩き続け、そして薄暗い空間へと辿り着いた。


「何も見えませんね………。ですが皆さん、気をつけてください。何が潜んでいるか、わからないですから」

「………其処に、”居る”………」

「え………何か見えるの?」

「…………」

「結翔………?」


結翔が何かが居ると言ったものの、それ以上は言葉を発しない。

一体何が居るのか?と思ったが、その答えはすぐに知った。


『流石、水の精霊使いね………。褒めてあげるわ』


その声は暗闇の中に響く。


「紅蓮の魔女……・…何処に居るの?姿を現しなさい!」

『別に隠れてなんて居ないわ。私は最初から、此処に居るのだから………』


七海の言葉に呼応するように魔女がそう答えると、先ほどまで薄暗かった空間に一斉に松明が灯り、室内全体の様子がはっきりと見えるようになった。


そこはまるで謁見の間。

玉座に座る魔女が私たちを見下ろし、微笑みながら語りかける。


『ようこそ、我が城へ………来てくれると信じていたわ、あなた達を歓迎しましょう』


魔女はそう言って、肩肘をついて微笑みかける。

彼女はいったい何を考えているのか?


「随分と手荒な歓迎ね。でも。手間が省けたわ。私は元々、ここへ来るつもりだったのだから………。予定よりかなり早まったけれど」

『あら、そうだったの?何の用かしら?でも、私が会いたかったのは異界の者、あなたよ』


七海に対しては冷たい態度だが、何故か魔女は私に会いに来たらしい。

一体何の目的があって、私に会いたかったのか見当も付かないが。


『そう畏まらなくてもいいわ。あなたが居た世界のことを、聞かせてもらえるだけで充分。だから、ねえ。教えてくれないかしら?あなたの居た世界のことを………』

「なぜ、私が居た世界のことを知りたいのですか?」

『なぜ………?そうね、まずはそこからお話しすることにしましょうか。元々、あなたをこの世界へ呼んだのは私ですもの………』

「え………?どういう、こと………?」


魔女の言った言葉に、私は耳を疑った。


―――彼女が、私をこの世界に呼んだ?

―――何の為に?

―――何故、私を?


疑問が湧き上がり困惑する私に、魔女はひとつひとつ丁寧に説明してくれた。


『そう、私があなたを呼んだのよ。あなた、ここに来るまでのこと覚えていて?』

「………覚えてるわ。でも、それがどうしてあなたに繋がるの?」

『それは、これを見ればわかるでしょう』


魔女はパチンと指を鳴らすと松明が一瞬だけ揺らめき、先ほどまで誰も居なかった場所に、ローブを纏った従者らしき者が現れた。

その者は跪き頭を垂れると、抱えていた水瓶を差し出した。

魔女はそれを受け取ると、「いい子ね、ありがとう」と優しく囁き、頬を撫でた。

彼の者は魔女からの褒美に笑みを浮かべると、そのまま霧と化して姿を消した。


受け取った水瓶を天に掲げ、魔女は再び微笑んで言葉を紡いだ。


『さあ、魅せて御覧なさい………。その胸に閉ざされし、鍵を解き放って』


魔女が持つ水瓶から光が放たれると、キラキラと煌めきながら光の粒となり降り注ぎ、私はその中に取り込まれた。

周りに沢山の水の玉が浮かび上がり、そしてそれらが弾かれると映像らしき光景が映し出された。

その映像を見て、私は目を疑った。

なぜなら其処に映し出されていたモノは………。


「私の………記憶………?」

『ご名答。これは貴方の過去の記憶を映す水鏡。そして、全ての鍵となるものよ………・』


それは私がこの世界に呼び込まれる直前の光景。


鏡の彫刻の前に佇む私の姿。

彫刻に映る幾つもの私の姿。

そのひとつが姿を変えて、薄ら笑いを浮かべると鏡の中から手を伸ばし、私を捕らえて引き摺り込もうとしている。


『そう。あれが、あなたの影なのね………』

「私の、影………?」

『ええ、そうよ。そしてその影は元々、私が放ったもの。でも、その時は未だ瘴気の塊だったのだけれど。あなたに出会ったことで、人の形と成した………。ここまで言えば、もうわかるわね?』

「あの影が、あなたが放った瘴気が、私を此処へ連れてきた………」

『そう言う事よ』


『よく出来ました』と満面の笑みを浮かべて魔女は大いに喜びを露わにする。

何の目的で私をこの世界へ呼んだのか?

そう問おうとしたが、先に七海が魔女へ自身の疑問を問い掛けた。


「千紗都が此処へ来た経緯は分かったわ。何の為に呼んだのかは謎だけど。でも、私からもひとつ聞いていいかしら?」

『あら、何かしら?』

「5年前のこと………何の目的で襲撃なんかして来たの………?」

『ふふ………そんなの、暇つぶしにもならなかったわ。でも、その御陰であなたは精霊の力を継承出来たのだから、結果的には良かったのではなくて?』

「暇つぶし………?そんなことでお姉ちゃんたちを………!」

『あら、直接的に殺したのは私ではなくて、あなたでしょう?逆恨みされても、困るわ』

「………っ!!」


皮肉にも、実際直接的に皆を死へと追いやったのは七海の力の暴走で、魔女はそれを敢えて主張するかのように睨め付けた。


「七海さん、挑発に乗ってはいけません」

「でも………!!」

「此処で彼女の口車に乗せられても、何も変わりません。少し落ち着きましょう」


仮宥愛は冷静に様子を見守り、七海に落ち着いて行動するように牽制する。

七海は怒りの矛先を奪われ憤りを覚える。

その様子をつまらなそうに見下す魔女は、『あら、もうおわり?』と冷やかし、七海を煽る。


『まぁいいわ。話が少しそれてしまったけれど、続きを楽しみましょう』


そして魔女は再び水鏡の映像へと視線を向ける。

映像は先ほどまでとは異なり、別の光景を映し出していた。


駅前の噴水広場、デパートの2階の遊戯コーナー、そしてその中に設置されたタロット占いの画面。

まるで記憶を遡っているようで、その映像は過去へ過去へと映し出していた。

また場面が切り替わり、今度は町の中が、そして高校の校舎が映し出された。


「………何処まで遡らせるの?」

『重要な部分に差し掛かれば勝手に止まるわ。それにしても、あなたの世界はいろんな建物ばかりで人も多いのね』

「私の居た場所は、人口密度的には少ない方だよ。都会の方に行けば、人混みだらけで息が詰まる程だから………」

『あら、そうなの?是非ともその”トカイ”っていう光景を見てみたいわね』


魔女は如何にも興味津々といった様子で、映し出される映像を眺めている。

反対に私は、自身の記憶をさらけ出される事への不快感を抱いて。

そして七海もまた、募る魔女への怒りと今は何も出来ない事への憤りに、苛立ちを露わにしている。

仮宥愛と結翔だけは冷静に状況を見やり、様子を窺いながら映し出される映像に視線を向けている。


そして映像は、ある時期を境に遡りを止めた。


映し出されていた光景は―――。


「私の、家………」


そう、私が3年前まで住んでいた家だった。

つまり、この記憶は3年前のもの。

そしてその頃の記憶は………。


「千紗都さん………」


仮宥愛が声を掛けるが、私は返事も出来ず立ち竦んでいた。

私の過去を知っている仮宥愛と、間接的に知った結翔は、何も言えずに様子を窺っている。

ただ、何も知らない七海だけが状況を理解できずに、困惑した顔で問い掛ける。


「千紗都の家が何だって言うのよ?」

「………」

「何黙ってるのよ?もしかして………何かあったの?」

「………そうよ。だってこの家は、もう………存在しないから」

「え………?それって、どういう………」

『それは、続きを観れば分かるわ』


七海の言葉に被せるように魔女が呟く。

その映像を皆が見つめる中、私だけは視線を逸らし、唇を噛み締めていた。

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