あわあわな誘惑
空中都市の中央にある、お城とも言えるような巨大な遺跡部分はメインが研究所となっているが、メインで使っているのが研究所というだけで奥にはしっかりと生活用スペースがあるとの事だった。
そうして躊躇い無くつかつか歩いてゆく主様についていけば、大浴場が広がっていた。
そう、大浴場である。
……映画とかゲームとかで見るタイプのローマ式大浴場……!
語彙力が死んだ言い方になるが、凄く広くて凄く綺麗で凄く明るい空間だった。
男女分けされていないので脱衣所も風呂場も一つだが、コレはお金が取れるぞというレベルで広い。
脱衣所でさっさと服を脱ぎ捨てた主様に続き、私も服を脱いで袋へと仕舞う。
勿論私が脱ぐより先に主様の脱ぎ捨てた服を回収し、こっそり顔を埋めて深呼吸を三回程。
思いっきりその行動はバレていたらしく、顔を上げたら風呂場へ入ろうとしていた主様が扉へ手を掛けた状態でドン引きの顔をしていたが、まあまあまあ。
「機械油強めですが、その中から香る主様の体臭を前にして私が大人しく出来るはずもないので!」
「開き直るな」
溜め息を吐かれたが、それだけ言って主様はさっさと扉の向こうへと移動する。
どうやら私の行動に何か言うよりもマジで風呂に入りたいらしい。
……まあ、結構キシキシしてるというかギトギトしちゃってるもんな。
気持ちはわかるので追随すれば、ガラスの扉越しにわかってはいたが凄まじい大浴場が広がっていた。
お高いホテルとかでしか見られないヤツじゃないのか、この風呂。
思わずはしゃいでそのまま飛び込みからのスイミングを敢行したくなったが、ソレをやったら多分マジギレ主様によって湯に沈められて風呂場が真っ赤に染まりそうなので却下。
「あ、ちゃんと洗い場あるんですね!」
「当然だろう」
言いつつ、主様は洗い場の椅子へと腰掛けた。
当然ながら風呂場なので全裸である。
パンツという最後の砦も無いマジな全裸姿。
一切隠す様子が無く、というか恥じる様子も無く、後ろめたい様子も無く、タオルでご立派なイチモツを隠す様子も一切無い。
つまりめちゃくちゃガン見出来てしまって脳内メモリが主様の全裸画像で埋まってゆく。
……エクセレント!
不快そうな表情も、太い首も、逞しい腕も、豊満な胸筋も、引き締まった腹筋も、薄い尻も、弾けそうな大腿も、獣の足も、油でペットリしている尻尾も全てが素晴らしい。
「顔面を椅子にして欲しいくらいには美しいです主様!」
「褒められている気がしない」
「褒めてますよ! そりゃあもう全力で褒めてます! ただそれはそれとしてこの世の至高とも言える主様に全裸状態で腰掛けてもらえるとかその椅子死ぬほど羨ましいぐぬぬって感じなんですよ! もしも今私が椅子だったなら全身で主様の裸体を、というか主に下半身を堪能出来たのに!」
「純粋に気持ち悪い」
「褒め言葉ですね!」
いえーいと喜べば酷い蔑みの目で見られた。もっともっと!
「ところで主様、御髪とか洗わせてもらっても良いですか!?」
「何だ、そういうつもりじゃなかったのかい?」
「えっ」
主様は何を今更、とでも言うように首を傾げる。
斜め後ろに居る私に対して喉仏を見せつけるような、仰け反るような傾げ方だ。
「いつもそうしているだろう」
「確かにそうですけど!」
宿屋とかで風呂がある場合、まあ風呂というか大抵はシャワーだが、そういう時は主様のお体を洗ったりさせていただいているのだ。
最初は幾ら私でも遠慮があったのでお風呂上りの主様をタオルで拭ったりする程度だったが、いちいち同じ洗うという動作が面倒臭い、と呟いていたのでじゃあ私が! と主張した。
……面倒臭いからってお風呂入るのをやめない辺り、主様って生真面目だよなあ。
生真面目というか律儀というか。
まあ単純に汚れているのが不快だとか、身綺麗にしておく癖があるとか、そういう系なのかもしれないが。
「今日も洗わせていただいて良いんですか!?」
「自分で洗う方が面倒だ」
「ヤッター!」
いつ主様が私に洗わせるという行為自体に飽きるかわからないし、もし飽きている時にじゃあ洗いますねーとか言ったらぶっ殺されるだろうから毎回聞いているのだが、毎回こうして当然のように肯定されると思わず踊り出したくなってしまう。
こういうのが許されているというのは嬉しい事だ。
「ではまず髪を濡らしますね!」
ウッキウキ気分になりながらシャワーヘッドを手に取る。
こちらの世界のシャワーは天井セットなホテル系シャワーと、一般的なホース付きシャワーがある。
が、それは水道が通っている場合だ。
……水道通ってないとこもあるもんな、異世界!
何なら水道が通っていない方がよくあるくらいだ。
しかし魔法石という便利なアイテムがある為、シャワーヘッドに水属性の魔法石を入れる事で水を出し、シャワーとして使用する事が可能なのである。
ちょっと魔力を調節して作動させれば、あっという間に普通のシャワー。
……最初はホース部分も無い単体シャワーヘッドから水が出るのが不思議だったけど、わりとすぐ慣れたよなあ。
というか日本人はそもそもが適応能力の化け物染みた部分があるので、そういうのもちょっと影響があるのかもしれない。
ちなみにシャワーヘッド部分も魔道具として加工されているらしく、上等な物になるとレベルの低い魔法石でも長時間しっかり使えるだとか、温度調節が出来るとか、硬水軟水を変更出来るとか色々ある。
ここのはかなり上等であり、温度調節も気軽に出来るようで良い感じ。
……上等っていうか、うん、まず装飾見た時点でこりゃ高級だって感じがしまくってるよな……。
この大浴場にセットされていても何ら違和感を抱かせないデザインの時点で高級品だろう。
流石に安物がここに居たら、ステーキの上に乗ってるカリカリ梅レベルで何でお前ここに居るの感が凄くなるだろうし。
「洗いまーす」
「ん」
濡らした髪を備え付けられているシャンプーでわしゃわしゃと洗う。
意外にもこの世界、石鹸以外にもシャンプーやら何やらがあったのだ。
とはいえ分類は洗髪用魔法薬という分類らしく、液体タイプの魔法薬というイメージらしいが。
……実際、材料によるものなのかほんのりと魔力を帯びてるもんなあ。
なのでお風呂によるメンタル的な回復だけではなく、ゲーム的に言うならMP回復も可能なので尚の事リフレッシュ感が強い仕上がりとなっている。
勿論シャワーによる水浴びだけで済ませた場合はMP回復ならずといった仕上がりとなるが。
……あ~、何回こうして洗わせてもらってもやっぱり毎回最高だな……!
爪を立てないように気を付けつつ、主様の短い髪をわしゃわしゃと泡立てる。
巻いているヒツジのツノが邪魔になって洗いにくい部分もあるが、その難易度すらも愛おしい。
寧ろ細かいところに指とか突っ込んで洗ったりするという事実が興奮する。
相手の足の付け根部分を洗うような繊細かつマニアックでありながら確実に興奮する感じ、と言えばわかるだろうか。
惜しむらくは主様の髪が短い為、洗髪タイムがあっという間に終わってしまう部分。
……長さが無いからトリートメントは無しだもんなあ。
艶出しのトリートメントは却下されるが、コンディショナータイムがあるだけまだ主様の頭部へ触れる事が出来るという幸せタイムは延長される。
主様に頭を踏まれる事こそあれど、主様の頭に触れる機会なんてものはこういう時くらいしか無いので大事な時間だ。
正直言って主様の頭を撫でるような状況も無いわけだし。
……私としても主様には私の頭を足の裏でぐりぐりやってもらいたい派だしな!
「流しまーす」
「ん」
そう思いつつ、胸を主様の逞しい背中へと押し付けるようにしながらシャンプーの泡を洗い流す。
最初は当然ながら胸を押し付ける事を拒絶された、というか普通に距離が近いと嫌そうな顔で言われたのだが、そこはもう私の欲望の為に全力で交渉した。
・
「火炎袋が仕込まれているこの爆乳は物理的なドバイン感があるので主様の頭を洗おうとすると必然的にそうなるんです! 主様の背中におっぱいを押し付けたいという私の痴漢的、というか痴女的発想があったのは事実ですが、それはそれとして物理的なリーチ問題があるのもまた事実! 高身長に見合う腕の長さですけど、それ以上にこの爆乳のボリュームがあるので洗いやすい体勢を取ろうとすると胸を押し付ける体勢になるのは致し方ない事かと!」
「押されるというのが不愉快なんだよ。いっその事、僕の頭を洗う間だけその胸を斬り落としたらどうだい? そうすればサイズがどうとかいう問題も無くなる」
「僭越ながら私の回復能力からすると多分斬り落としても一瞬で回復すると思います! あと単純に性癖的な問題から私個人が凄くイヤです! 確かに激痛の時点で痛覚は無くなりますけど、二十年前後の人生で求め続けて来たおっぱいがこの胸にあるんですよ!? それをわざわざ斬り落とすだなんて求め続けた真珠を放り投げるようなもんですよ! そりゃあ私としては他人の巨乳を見るのが好きですが、この胸にある重さも大事にしたいです!」
「うるさい」
・
結果的に私が一歩も引かなかった為、主様は凄く面倒臭そうな顔をしながら諦めてくれた。
衣服がどうだの仲良くなった人間を殺すだのはまだ受け入れられるが、おっぱいに関する部分は一歩も引けなかったので致し方なし。
性癖というのは貫き通さねばならぬものなのだ。
まあ主様としてもそんな私と延々身にならない話をするのは面倒と思ったらしいのでヨシ。
私が巨乳と筋肉などといった性癖部分に関してだけやたらと一貫性があるのはいつもの事なので、尚更どうしようもないと悟ったのかもしれないが。
……例え異世界だろうが死んでいようが化け物になろうが、その部分だけは変わらないぜ……!
そこだけが変わらないのもどうかと思うが、性癖は他の何よりも大事な部分なので仕方あるまい。
性癖の不一致は相容れぬもの。
巨乳を斬り落とすのが性癖という方も居るかもしれないが、私はあくまでボインと元気な巨乳が好きだし、あんまりグロ方面に関する性癖は持っていないので駄目だった。
断面がグロくない達磨系で巨乳か筋肉があるようなら全然ウェルカムなんだけど。
戦場帰りのガチムチが達磨状態で何されても逆らえない状況、しかし手厚く世話をされつつシモの世話までされる……というのとかなら素晴らしく好み。
こっちの世界にもそういう系のエロ本とかあるんだろうか。
主様、本は色々読むのにエロ本系はあんまり読まないのでわからん。
……今度本屋に寄った時、私も確認してみるか。
でもついつい本を眺める主様を眺めてしまうのでエロ本がうっかり頭の中からすっぽ抜けるかもしれない。
わりといっつもそんな感じだ。
エロ本よりも主様の方が私の中での優先度強いんだろうなあ。
「流しますねー」
「ん」
コンディショナーを洗い流せば、反射のように頭をぶるぶる振るわせて水気を飛ばした主様は当然といった様子で左腕を横へと緩く伸ばす。
体を洗えというその仕草に思わずにやけるのを感じながら、私は備え付けの石鹸を泡立てた。
……あ、めちゃくちゃフルーティな香りだ。
嗅覚で感じているはずなのに味覚が美味しいと感じるくらいにはフルーティな香りの石鹸だった。
コレは中々に好きな香りだなあと思いつつ、立てた泡を自分の胸に絡ませて主様の腕を谷間で挟む。
……ん、
ひんやりとした体温を胸の谷間に感じつつ、自分の腕で胸を押さえながら、滑らせるようにして泡立てつつ洗う。
生前は谷間も作れなかった私だが、こうして胸の間にある感触を楽しめる身になれるとは。
しかもめちゃくちゃ好みの相手。
……谷間で、地肌で感じる主様の腕の太さとか硬さとか筋肉とか脈とか体温とか、全てが全て最高過ぎる……!
「…………何をしているのかな?」
「おっぱいスポンジという男の夢を叶えてます!」
「そうか、不快だから今すぐにやめろ」
「そんなあ!? 男の夢でもあり私の夢ですよ!? 大きいおっぱいを押し付けられて洗われたり谷間に挟まれるようにして洗って貰う! おっぱいの柔らかさを感じると共に地肌の滑らかさもわかり、加えて泡がローション代わりのようにぬるぬる滑って素晴らしい触感に!」
「俺はそういう事に関して興味が無い」
それ以上のプレゼンを聞く気も無いとばかりに一回殺された。
谷間に挟んでいた腕を強く振り上げた事により、爪で腹から脳天までを切り裂かれたらしい。
すぐに回復するし痛みも無いから良いけれど、日の光が当たらない場所なので大浴場の洗い場が一瞬にしてピンク色。
泡とお湯に混ざって真っ赤な血液がポップなピンク色に染まっているけれど、鉄臭さは据え置きなのでファンシーさは全然無い。
「うう……私としてはおっぱいで主様が興奮してくれたらなーって思ったんですけど……」
溜め息を零しつつ、シャワーを使ってピンクな血溜まりを排水溝へとザアザア流す。
「あれ以来主様ってば性的な気分になる事も無いですし、ならばその気にさせれば良いじゃないって思ったのに……」
「寧ろ何故あんな行動で僕が興奮すると思ったのかが不思議でならないけどね」
「おっぱいですよ!? 巨乳超えた爆乳ですよ!? 私だったら腕挟まれた瞬間にヨダレ垂らしてダイブかまして押し倒します! そのままおっぱいを堪能しますね! 正直言って目の前で股開かれるよりも巨乳で迫られる方が興奮するので!」
「お前みたいな変態と俺の感覚を一緒にするな。侮辱と認識されたいか」
「主様の冷たい視線最高です!」
「…………」
侮辱だなんてそんな事ありませんよ! と言おうとしたはずが口は勝手に違う事を口走っていた。
しかし主様の冷たいドン引きの視線がゾクゾクするのもまた事実なのでどうにもこうにも。
全裸の主様が全裸の私を冷たく見下しているという状況にゾクゾクしないマゾは居ないだろうから仕方あるまい。
そう思いつつ、再び石鹸を泡立てて、今度はおっぱいを使わず普通に主様の体を洗い始める。
胸で挟めないのは残念だが、こうして手でじっくり触れる事が許されているというのはいいものだ。
……あんまり時間掛け過ぎるとそれはそれでキレられるけど、指先で筋肉の流れをなぞったりする分には許されるのが最高……!
ガチガチの硬さが秘められているも、絶妙な脂肪によりコーティングされている為程良い柔らかさを持つ筋肉。
こんな素敵な筋肉に抱きしめられたらと思うと、想像するだけでトびそうになる。
今だって口の端から零れるヨダレが止まらない。
「しっかしなんで主様はそうも禁欲的なんですかねえ……私だったら一発アウトみたいな誘惑にも全然ですし。青いの達探してる時に夜の町でも聞き込みしましたけど、そん時にセクシー衣装の巨乳な美女に声掛けられても好青年モードだっていうのに笑顔で一刀両断じゃなかったでしたっけ」
「応じる理由が無い」
「端的!」
相手が巨乳で露出多くて巨乳で美女でエロに好意的で巨乳なら問答無用でホイホイされるもんじゃないんだろうか。
地球に居た頃の私なんて女性もオッケーな店では巨乳押し付ければ金せびれるって事でわりと高確率でカモにされてたというのに。
まあ相手方も好意的な関係を結んだ方が長期的な収入になるとわかっているからか、常識的な範疇の搾り取り方だったけれど。
「それに禁欲以前に、僕は欲が……」
こちらを見てそう言いかけた主様は、いや、と一度目を伏せるように瞬き、考えるようにどこでもない、気持ち下の方へと視線を向けながら言う。
「飽き性だからと次々に新しい物を求めるというのは、ある種欲があると、欲深いと言えるものかもしれないね?」
「私としてはもっとエロい方面を期待したいんですよ主様……!」
欲があるならもうちょい強めに性欲を出してくれ。
「主様のような最高にド性癖な相手を前にして即日ベッドイン出来ないだなんて! 目の前に凄いご馳走を前にしたまま待てを延々させられてる気分です! でも視覚的嗅覚的な満足感があるレベルの最高過ぎるご馳走だからソレはソレで満足出来ちゃうし!」
叫びつつも、手つきが荒くならないよう気を付けて主様の背中側から正面へと回り、主様の筋肉質な足へと泡を滑らせる。
大腿部の筋肉がパツンとはち切れそうなのが素晴らしい。
馬とか鹿の後ろ足染みた筋肉で、見ているだけでも曲線の艶めかしさに興奮しそう。
「…………ふうん?」
こちらをじっと見つめていた主様はこてりと首を傾げ、その黒と赤の目を細め、楽し気に口の端を吊り上げた。
泡だらけの体のまま、主様はその泡だらけの腕を伸ばして私の鎖骨に触れ、指先を上に向けてつつつとなぞり、喉を伝って顎をクイと持ち上げる。
上からこちらの顔を覗き込んだ主様は加虐的な気配を纏わせた笑みのまま、く、と喉を鳴らした。
「何なら僕の予想外を突くつもりで襲う……」
言いつつ、主様はするりと身を前へと傾け、私の耳元に口を寄せて低く囁く。
「……なんてことをする気は、ないのかい?」
「主様……!」
ごぎゅ、と私の喉が派手に鳴った。
目の前の誘惑に脳みそが茹だりそうな程に意識がぐらつくも、拳を握って手の中を泡を潰しつつその誘惑に耐えて私は叫ぶ。
「いくらなんでもサービスが過ぎるし自制心が持ちません!」
「それだけ?」
自制心が籠城している門を丸太でガンガンこじ開けられそうになっている中で目を覗き込まれるも、私の答えは変わらない。
というか、
「というか、ソレやったら私にアウト判定出されますよね?」
「へえ、どうしてそう思ったのかな?」
姿勢を戻した主様が、楽しそうに笑う。
覗き込むような距離ではなく、こちらを見下すような距離感だ。
やはりこちらの方がゾクゾクして良い。
距離が近いとドキドキの方が勝ってしまうので劇薬過ぎる。
「いやまあ、私としてもやって良いなら全然襲いたいところですけど、主様を襲うってのはイコールで主様を敬っていない認定出されるだろうなーって。襲っても良い対象という事は、つまり自分より下に見ているだとか、襲い掛かって勝てる相手だとか、そういう認識をしてるんだろうなって判定を下されての連続殺害のマジなサヨナラコースになりますよね、ソレ」
「…………」
見下すようにしてこちらを見ていた主様は楽しそうだった表情を消し、目に冷たい色をのせたまま、眉を寄せながら視線を逸らして溜め息を吐いた。
「何だ、よくわかっているじゃないか。つまらない」
「わかってたって襲いたいですよ!? 今はもう自制心の喉元に刃物突きつけて誘惑に屈するなよって必死に脅してる勢いですからね!? 可能な限り主様を堪能したいしハアハアしたい! でも許可も取らずに襲うようならさっき言った理屈でアウトになりますし、仮に主様が予想外と認めたところで、ソレに私がコレは予想外でしたよね? とか言いながら襲うようならその瞬間にアウトでしょうし!」
ド性癖だからこそ、性格も含めて性癖ドンピシャだからこそ、察せる部分もある。
「だって主様、例え予想外だったとしても意図的に提供された予想外は嫌いですよね!?」
「…………まあ、そうだね」
無表情のままであれど、どこか憎々しそうに主様はそう返した。
「僕の想像する範疇を出ないのはつまらないけれど、だからといって誰かの予想通りになりたいわけじゃない」
その目の温度は冷ややかに凍てつき、声色は低さを増してゆく。
「俺は思いもよらないものや新しいものが好きだが、そう思うよう強制されるのは嫌いだな。そうやって感情も何もかもを強制されるのは不愉快だ」
「実際予想外のギャップとか言ってタイトルで眼鏡セーラー服真面目委員長とか言いながら眼鏡外すわ全裸にするわ初手からエロエロだわみたいなAVは許せませんしね」
アレは酷い、と私は頷く。
「いっそまだ見ない方がマシですよ。詐欺は詐欺とわからなければ平和ですし、期待による妄想の余地が生まれます。例えパッドという詰め物で作られた虚乳であろうと、ソレを知らなければ私にとっては巨乳です。勿論生の巨乳を拝めたら嬉しいですが、想像の余地ってのは大事ですからね。だっていうのにギャップだとか言いながら眼鏡も制服も台無しにするようなのは、巨乳と謳いながら貧乳だったようなもの……愛があっての性行為時ならともかく、巨乳による性的興奮求めて見てる相手にソレは詐欺ってもんですよ! ですよね!?」
「意味が分からない」
「あ、風俗あってもこっちってアダルトなビデオ無い感じです? えっとですね、撮影したエロい映像なんですけど」
「いや、キミの言動からしていかがわしい方面の用語なのはわかるけれど、キミの言っている内容を理解したくない」
「褒め言葉ですね!」
主様の足を指先まで、それこそ爪の先まで綺麗に洗い終えつつ拳を握れば、主様は疲れたようにハァと呆れ混じりの深い溜め息を吐いた。
「こっちは色々と嫌な事を思い出して不愉快な気分だったというのにね」
「嫌な事を思い出した時は目の前にある良い事やこれからの良い事を考えれば良いんですよ! 私は主様が存在してくれる限りいつでもどこでもいつまでも最高にハッピーです! 他人がこの座を狙うようなら問答無用で仕留めますけど!」
「キミはいつでも予想通りに予想外というか、根本的に会話が通じていない気がするな」
「えっ!? でも私にわかるよう解釈するとお前ら結局エロい事してりゃ良いんだろみたいな軽さで装飾品を重視する人の性癖を軽んじるようなヤツは万死に値するって話ですよね!?」
「そんな話はしていない。した覚えも無い」
すんっとした顔でハイライトの消えた目を向けられたが、その視線もまたゾクゾクする。
興奮を必死に抑え込みつつ、私は主様の体を覆う泡を洗い流した。




