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剣仙聶隠娘 ー剣仙少女project01ー  作者: 吉野川泥舟
第四章 後継
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第五話 影絵

 あれはいつぐらいのことだっただろう。


 父さま、母さま、そして老三たちと一緒に少し離れた大きな街のお祭り見物に行ったのは。


 赤い燈火がお店の軒先にずらっと掲げてあって、見るもの全てに赤い影を落としていた。


 ものすごく精巧な飴細工を目の前で作ってくれる職人の屋台。英雄譚を身振り手振りを交えながら軽快に語る講談師。広場には舞台が設られてさまざまな芸能が披露されていた。


 そんな中、人間や動物の形に切り抜いた紙に光を当ててくるくる回し、できた影を自在に動かしていろんなお話を語る一座があった。影絵は大きくなったり小さくなったりくるくるくるくる、忙しなく動き続けて、幻想的な物語を披露してくれた。


 父さまが言うにはそれは幻灯機というもので、最近都会の方で流行り出したお芝居の一つらしかった。


 ――今、あたしの前に見えるのは、あのとき熱心に見入った幻灯機のお芝居のようなものだった。


 白い壁を背景にして薄い影ぼうしが次から次へと姿を現して物語を紡いでいる。


 ただ声は聞こえない。影の様子から会話をしていることだけが何となく分かるくらい。


 最初に現れたのは髪の長い女の人だった。その人は大きな机に向かって懸命に両手と両足を動かしている。それが機織り機に向かっていることに気づいたのはしばらく経ってからだった。やがてその後ろにずんぐりした背格好の男性が現れた。女性は機織りをしていた手を止めて振り向くと、ゆっくりと立ち上がってその男性に恭しくお辞儀をした。


 場面が変わったのだろうか、右手に剣を一振り提げた女性の姿が突如として浮かび上がった。その女性はおもむろに剣を構えると前後左右に薙ぎ払いながら所狭しと剣舞を始めた。するとしばらくしてからさっきの男性が登場し、剣を構えると女性の相手をするようにして剣舞を始めた。


 場面が暗転し、剣舞をしていた男性が床にあぐらをかいて座っている。膝の上に小さな人影があり、男性はそれを両手で持ち上げると肩車をした。その横には女性が一人寄り添うようにして座っている。すると白い背景の右端から剣を提げた女性がスッと姿を現した。剣の女性は離れたところからその様子をしばらくの間窺っていたが、やがて背を向けると音もなくその場から立ち去った。


 突然白い壁が大きく乱れた。大雨に降られたすぐの川のように青黒く濁り出す。その中心に小さな渦のようなものが現れてぐるぐると回転を始めた。渦はどんどん大きくなり程なくして青黒い濁りは壁一面に広がった。


 やがて濁りはまるで潮が引くようにして白く澄んでいき、今度は髪を大きく振り乱して剣を舞わす女性が現れた。その様子は背筋が凍るほどの迫力で剣尖には凄まじいまでの殺気が宿っているように見えた。女性が剣を大きく右に薙ぐと、遅れて丸いものがいくつも宙を舞った。剣を素早く左に薙ぎ払うと、同じように丸いものがポンポンと浮かび上がる。


 そこから先はほとんど同じ展開だった。女性が剣を振るうと丸いものが宙に飛ぶ。ただ女性の影だけが一定ではなかった。女性が剣を収めるその度に姿がぐにゃりと変化する。背格好、髪型、そして身に纏っている服装。剣を舞わす女性の影は次から次へと目まぐるしく姿を変えていった。


 そして影はまた新たな姿に変化した。その影も同じように剣舞を始めたが、これまでの影とは違っているところがあった。いくら激しく舞っても髪が揺れない。代わりに頭から被っている頭巾のようなものの端が左右に振れていた。


 画面の左端に小さな影が二つ浮かび上がった。二つの影はどちらも両手両足、そして首を鎖のようなもので繋がれていた。小さな影に歩み寄る頭巾の前に沢山の人影が姿を現す。頭巾は剣を横に薙ぎ払って影たちの頭を刎ね飛ばし、うずくまったままの小さな影たちに歩み寄った。頭巾が剣を振り下ろすと、繋がれていた二つの影は自由になり、やがて連れ立って画面からいなくなった。


 次に頭巾が登場したとき、その影からは片腕がなくなっていた。頭巾の前に新たな二つの影が現れる。その影たちは頭巾を阻むようにして立ち塞がり、背の高い影は細い筒のようなものを、背の低い影は二本の剣をそれぞれ構えた。そして一対二の壮絶な戦いが始まった。攻防が目まぐるしく移り変わる戦いの果てに、長身の影が武器を弾き飛ばされたその瞬間、背の低い影の一閃が頭巾の影を左から右へと大きく横に薙いだ。たたらを踏んだ頭巾目がけて長身が右手を振る。すると頭巾は腹部を押さえるようにして両膝を地についた。


 影絵の物語はそこで終わった。白い壁は音もなく消え失せ、そして――


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