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剣仙聶隠娘 ー剣仙少女project01ー  作者: 吉野川泥舟
プロローグ
1/37

詩 ーモノローグー

遥かなる天漢を隔てて、互いに輝きを発する二つの星。

微かな明滅の果てに、際限なく生み落とされる怨恨と報復。

幾星霜を経て、色褪せたのは怨恨の源。

幾星霜を経て、鮮やかさを増すのはーー。


 詩に曰く、



 牛飼いの煌めきは限りなく  織り姫の輝きは果てまでも


 白く細い手指はなよやかに  機を織るちょは虚ろに揺れる


 いくら織れども形を成さず  涙はこぼれて綾絹を濡らす


 天漢の流れは清くまた浅く  隔てる距離も近くはあれど


 川に遮られたままの二人は  視線を交わして黙するだけ



 ーーーーー



 怨恨と報復は鎖に似ている。


 怨恨が報復を生み、そして報復は怨恨を生む。


 連鎖だ。いつ果てるともわからぬ、負の連鎖。


 この鎖は、いつから繋げ続けられているのだろうか。


 それに答え得る者はもう誰もいない。


 幾星霜という時を重ねるほどに、あらゆる事実は希釈されたから。


 この鎖は、いつまで繋げ続けられるのだろうか。


 それに答えようとする者は誰もいまい。


 幾星霜という時を重ねるほどに、あらゆる怨恨が濃縮されたから。


 怨恨は黒き鎖となって、少女の体と心、その全てに絡みつく。


 軋んだ音を立てながら、もがくほどにきつく、厳しく。


 少女が鎖から解放される時は来るのだろうか。


 緩やかな時の流れが少女の体を朽ちさせることができれば、あるいは。


 しかし、それは許されない。


 少女は時の環から外れた存在となった。


 自然の摂理の外側に存在する、生命と呼ぶことさえ憚られる生命。


 孤独と絶望に苛まれながら、それでも少女は剣を踊らせ続ける。


 そう。彼女はたった一人。


 背負わされた運命、そして。


 その細い両の腕を黒き鎖に繋がれたままーー


 剣舞はいつ果てるともわからない。



 ーーーーー



 雪だ。


 灰色に濁った空から、真っ白の雪が音もなく落ちてくる。


 あたしは雪を見ると、決まってあの日のことを思い出すようになっていた。


 それがいったい何年前の出来事なのか、それとも何十年前だったのか。


 今となっては定かではないものの、「あの日」のことだけは鮮明に思い出せる。


 故郷では珍しい大雪が降り、辺り一面真っ白だったから?


 びゅうびゅうと吹雪く中、夜遅くに来客があったから?


 いいやーー


 そうではない。


 そうではないの。


 ああ、今日もまたーー


 雪が赤く染まっていく。


 地面に横たわる男から、音もなく、ただ静かにーー


 やがてその赤は次第に黒く濁り、ゆっくりと、でも確実に、白を侵食していった。



 

 怨恨と報復は鎖のようなものだと誰かが言った。


 言い得て妙だな、と思う。


 今のあたしはその一番後ろ。


 繋がれたばかりの、まっさらの鎖だ。


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