嫁に鰻丼を求めるのは、間違っているだろうか?④
いくつもの技術によるショートカットを経て、ようやく満足がいくものを作り上げたラルーニャ。
それをフォローし続けたアセリアとレーラ。
その渾身の鰻丼が今、俺の目の前にある。
「おぉ……」
高い料理スキル。
鰻丼への理解を助ける熟練度。
ゲーム的な補正も手伝い、最初に作られた鰻丼とは完成度がまるで違う。
輝く白米の上に載せられた鰻の蒲焼き。
ドンブリの上でそれらが一体となって完成した鰻丼は、その見た目だけでも食欲を誘う。
いや、早く鰻丼を食べたいと思ったのはそれ以前からだ。
鰻丼の鰻を蒲焼きにするときの煙。
その煙の匂いだけで腹が減ってしょうがなかった。
「鰻は煙で食わせる」とはよく言ったもので、準備段階から俺はソワソワしていた。
試食で散々食べたアセリアやレーラは煙に耐性ができていたようだが、それでも目の前にドンブリが置かれればそこに目が行ってしまう。
鰻丼は、強い。
「それでは。――いただきます」
鰻丼はその味を引き立てる為に山椒やワサビを使うこともあるが、まず最初の一口はそのまま。何も付けず、鰻と米だけを食う。
口の中に入れると、鰻の香りが鼻に抜ける。
舌の上に鰻の甘みが広がり、単体ではクドくなりがちなそれを米が中和してほどよい口福をもたらす。
噛みしめればふわっとした食感の鰻から、旨みのエキスが口いっぱいに溢れる。更に幸せな気分になった。
途中で塩辛い漬物で口の中をリセット。
そのまま食べ続けるより、別の味で間を挟んだ方が味覚がぼやけない。
そして今度はワサビを使い、味を変える。
ワサビの辛さがいいアクセントになり、鰻丼を食べる箸の動きが更に進む。
山椒を使う間もなく、ドンブリ一杯分を食べきってしまった。
「美味しかったよ。でも――」
「駄目ですよ」
「もっと食べたい。お替わりを」と言おうとしたが、ラルーニャがそれを止めた。
にっこり笑っているが、こうなったラルーニャは何をしても引かない。妥協しない。
俺を止めたラルーニャは、クスクス笑って俺をたしなめる。
「こういう時は、「もっと食べたい」と思っても止めた方が良いんです。また食べたくなったら作ってあげますよ。絶対です」
「しかしだな。美味いものを腹一杯食べる幸せを堪能したいと思うのも、人じゃないか?」
「次がある、それも幸せですよ。ここで終わりじゃないんです。それを楽しみにする事はできませんか?」
なんと言うか、夫婦と言うより母と子の会話だな、これ。
みっともなくも抵抗してみせた俺は、やっぱり引いてくれなかったラルーニャの前に撃沈した。
「それに。同じものを食べすぎるのは駄目ですよ。食事はバランス良く。ね?」
敵わない。
そう思った俺にほうじ茶が出された。
お茶を飲み終える頃には腹に食べた物がたまったのか、確かな重みがあり満腹を伝えている。
だから俺はこう言って締める。
「ごちそうさまでした」