嫁に鰻丼を求めるのは、間違っているだろうか?③
ラルーニャは調理担当。
3人の中では一番料理を得意とする彼女が料理をするのは自然な流れだ。
調理場で数を熟し、経験を積む。
アセリアは試食担当。
多くの人からいろんなものを食べさせてもらえるアセリアは、その経験から鋭い味覚を持っている。
ただ「美味しい」としか言えないなどという事は無く、「こっちの方が美味しい」とアセリアが言うなら、だいたいそれは真実である。
レーラは素材提供担当。
白いご飯はもちろん、タレに使うお酒や醤油、その他調味料を用意するのがレーラの仕事だ。
タレの味との調和を考え甘みを抑えた白米など、彼女の立場を活かし色々と考えている。
「タレの段階で鰻の骨を煮込んで熟成期間を短縮……豚骨スープと同じ技法が使えますね」
料理は、どれだけ応用を利かせられるかが分かれ目になることがある。
蒲焼きのタレの場合、豚骨スープと同じ考え方ができるとラルーニャは言う。
ラルーニャは粉々にした鰻の骨を煮込むことでタレの味を鰻に馴染ませるようだった。
豚骨ラーメンのスープも、骨をそのまま煮込む旧来のやり方ではなく砕いて粉にしてから煮込む方法を採用し、煮込み時間を少なくするとともに味を良くしている。
他にもハーブを使って油のクドさを軽減したバージョンを用意するなど、新しいタレの追求も一緒にやっている。
ラルーニャが凄いと思うのは、この鰻丼関連の研究を通常の仕事の合間に収めていることだ。
ラルーニャは陸産関係のトップであり、そこそこでは無く多くの仕事を抱えている。彼女がいなければ進まない仕事というのは、かなりの量が存在する。
それらを滞りなく進めつつ、俺のワガママに付き合っているのだ。
他の2人の協力があるとは言え、すさまじい仕事量である。
「あんまり無理をするなよ。鰻丼が楽しみなのは確かだが、ラルーニャに無理をさせたくはない。
お前の方が大切なんだからな」
俺が心配してみせると、ラルーニャは笑ってこう返す。
「無理なんてしてないわよ。こういうのも、楽しいもの」
料理人の気質なのか、ラルーニャは無理を無理と言わず、趣味に没頭しているようなものだと言って休もうとしない。
おそらく、何を言っても無駄だろう。
ただ、無駄だからといって言わなくていい訳では無い。
言葉にしなければ伝わらないこともあるのだ。
「無理をしていると思えば、強制的にでも休ませるからな。覚悟しておけよ」
「怖いわねー。大丈夫よ」
頼んだ人間の台詞では無いかもしれないが。
優先順位を間違えることだけはして欲しくない。
過労でラルーニャが倒れることがないようにと、俺は出来る範囲で彼女を労るのだった。