鰻丼を嫁に求めるのは、間違っているだろうか?①
ゲーム内の四季の管理はザルだが、島に季節が無いわけではない。
となると、海で泳ぐのが楽しい夏にも終わりがあり、しばらくすれば海水浴などと言えなくなる。
クラゲが大量発生し、その回収――クラゲは錬金術の材料になる――で海が慌ただしくなる頃。
「鰻が食べたいな。鰻丼だ。川の村に行ってみようかな。
いや、あっちで鰻のかば焼き、作っていたか?」
某番組を見た俺は、鰻丼が食べたくなっていた。
通常のテレビ番組では、生放送でもない限り収録から放送まで時差が発生する。
そうなると土用の丑の日、鰻丼の時期からやや遅れて鰻丼関連の放送があったりするのだ。
俺はそれを見てしまい、鰻丼が食べたくなってしまったという訳だ。
リアルでは少々財布に痛い鰻丼であるが、ゲーム内なら特に気にすることなく堪能できる。
ただ、こうしてゲーム内で美味しいものを食べると舌が肥えてしまい、リアルでも美味を求めてしまうようになるのだが……そこは、今は考えないでおこう。
そんな先の事より、今は目の前の鰻丼だ。
とにかく俺は鰻が食べたかった。
鰻丼を食べたい、そんな理由で川沿いに作った村にやって来た。
「鰻ですか? ええ、獲れますよ」
ありがたい事に、鰻は獲れるという話だった。
これで鰻が手に入らないとなれば、鰻丼を食える別ゲームに突撃してしまうかもしれなかったので、助かった。
しかし。
「鰻丼? かば焼き?
なんですかい、それは」
鰻丼は、作れないというオチが付く。
この川の村は、川という水運の要であると同時に、水車を利用した粉ひきの村として作ったため、料理方面はそこまで発展していなかったようだ。
てんぷらなどの料理法は、ある。
たしかに川魚はシンプルに塩焼きとか天ぷらとかにすると美味しいんだけど、鰻と言えばやっぱりかば焼きなわけで。俺はそれ以外考えられなくなっていた。
つまり、鰻の天ぷらを出されても嬉しくない。
塩焼きというか、白焼き? そういった食べ方もあるし、それはそれで美味しいんだけど、そうじゃないんだ。
俺はタレにつけて焼いた、鰻のかば焼きを白い米の上に乗せて食べたいんだよ!
そうやって打ちひしがれた俺に、天使が救いをもたらす。
「いつものようにすればいいんじゃないかしら」
「え?」
「“無いなら作ればいい”って、いつも言っているでしょう?」
「それだ!」
そうだ。
鰻はあるんだ、かば焼きの技法を持ち込めばいいだけじゃないか。
いつものようにネットで調べ、根付かせればいい。
俺はラルーニャの助言に従い、急ぎ調べものに走り出すのだった。