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記憶喪失のシンデレラ

作者: 斉木凛

 女の子には、お姫様願望というものがある。


いつか、白馬に乗った王子様が、私を迎えに来てくれるはず、と。

現実に王子様なんかいないって、小学生になって気付くのか、社会人になっても信じているのかは個人差がある。


 私はシンデレラの物語が好きだ。


王子様が靴を届けてくれるなんて素敵。


 どうして、そんなことを思い出しているのかというと……。



朝起きたら、私の靴が片方無い。



正確にはゴミ出しに行って、帰ってきた時に気付いた。

私の住んでいるマンションの管理人はゴミ出しについて非常に厳しい。

ゴミ出しの時間も決まっていて、少しでも遅れるとゴミを持ち返されることになる。

だから、朝起きてゴミ出しの時間ギリギリだったので、慌てて捨ててきた。


お気に入りのブランド物の靴だったのに……。

昨日、合コンに履いて行ったことは覚えている。

だけど、どうやって帰ってきたのか、さっぱりわからない。

どこで無くしたんだろう、って考えていると、


ピンポーン


と、チャイムが鳴った。土曜の朝から訪ねてくる友達はいない。

誰だろう?と、思いながらインターホンで、


「どちら様ですか?」


と、聞くと、


「隣の部屋の者ですけど……」


と、男の人の声で答えが返ってくる。

モニターに映る人物を見てみると、本当に隣に住んでいる男の人だ。

その人はイケメンで、ひそかに良いな、と思っている人だった。

ドアを開けると、その男の人が、私の靴を持って立っていた。



王子様は来た!



しかし、どういうことか、さっぱりわからない私。

昨日の記憶が無いことを伝え事情を伺う。

どうやら、昨日の合コンで一緒だったらしい。帰り道、私と最寄駅が同じだったということで一緒に駅を出た。

私がタクシーで帰り、この男の人は自転車で帰るということになったらしい。

で、別れ際、男の人が、


「もう、会う機会はないですか?」


と、私に聞くと、その時の私は、おもむろに自分の靴を片方脱いで渡してきて、


「届けに来て!」


と、言ってタクシーで帰ってしまったそうだ。


昨日から、ずっと、私がどこに住んでいるのかを考えていたという。

ついさっき、やっとわかったので、急いで靴を届けに来た、ということだった。



靴を届けてもらっておいて、玄関先で立ち話もなんだろうと思って、部屋に上がってもらった。

居間に通し、テーブル脇の座布団を勧める。

コーヒーを二人分淹れテーブルに並べ、私も向かいに腰を下ろす。

いただきます、と、コーヒーを一口啜り、男の人が話し出す。


この広い世界で、たった一人の住んでいる部屋を探す事を考えると、最初は途方に暮れてしまった。

だが、合コンでの会話の中からヒントを探ることにした。

そして、彼女が言っていたことを思い出した。


「私の住んでいるマンションの管理人は、ニワトリに似た関西人で、ゴミ出しにうるさいの」


これには心当たりがあった。

自分の住んでいるマンションにも同じような管理人がいて困っていた。ニワトリに似た関西人の管理人なんて他にはいないだろう。

おそらく、自分と同じマンションだ、と思った。

いきなり捜索範囲が絞られた。

俄然、やる気が出てきた。

だが、そこから考えが進まない。

一体、このマンションのどこの部屋なのか?


そうこうしているうちにゴミ出しの時間になってしまった。

このマンションの管理人はゴミ出しにうるさい。


慌てて部屋を出ていこうとすると、隣の部屋の人も同じタイミングで部屋を出たようだ。

隣の部屋に女性が住んでいるのは知っていた。

ただ、今出ていくと、偶然を装ってエレベーターで一緒になろうという下心のある奴だと思われてしまう。

そう思い、隣の女性がエレベーターに乗るくらいの間、玄関でじっと待っていた。


そろそろ大丈夫かな、と思い玄関を出ると、独特な香りが通路に残っていた。

この香りには覚えがある。


「私の使っている香水は、自分で調合したオリジナルの香水なの。世界に一つしかない香りなんだ」


と言っていた、彼女の香水の匂いだ。



隣の部屋か!



まさか、と思いながらも、エレベーターホール脇の非常階段に身をひそめる。

ゴミ出しから帰ってくる隣の女性が、昨日の合コンの女性かどうか、確かめるためだ。

エレベーターが開く。

まさに、その女性だった。

そして、自分の隣の部屋に帰って行った。



見つけた!



急いでゴミを出しに行き、彼女の靴を持って届けに来た。

と、いうことだった。



そこまで言うと、その男の人は、一つ疑問があるんだけど……、と私の目を見て、


「もし、靴を届けられなかったら、どうするつもりだったの?」


と、聞いてきた。

ここまで来ると、全てを思い出していた私は、


「もちろん、隣の部屋に取りに行く」


と。

驚いている隣の男の人に事情を説明する。


「前から、あなたの事は知っていた。

昨日の合コンで向かいの席に座っても、あなたは気が付かなかった。

隣に住んでいることを気付いてもらうため、管理人の話をした。

それでもダメだったから諦めて飲みに走ったら、ワインが美味しすぎて記憶を無くすまで飲んでしまった」




その後、付き合い始め、交際は順調に進み、

そろそろ、同棲でもしようか、

という話になった。


一枚の壁を挟んだだけの隣に住んではいるが、お互いの部屋は二人で住むには狭く、新しい部屋を探す事になった。


新しい部屋を探すにあたって、何か条件ってある?

って話になった時、希望の条件を二人で同時に言ってみた。




「管理人が、ゴミ出しにうるさくない所!」


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