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ガラクトーゼ短編集  作者: 刺草
3/4

未練

豊かでもなく貧しくもない。大きくもなく小さくもない。強くもなく弱くもない。そんな何もかもが半端な国エイ国。この国の首都ではこの日、広間に多くの人が集まっていた。何か、セレモニーが行われているようなのだが、集まった人々の顔はどうしてか暗く沈んでいた。


 そしてはるか空の上、天界と言われる場所、ここにはある一つの魂が流れ着いていた。

 「こ、ここはどこだ!?雲の上だなんて、初めて見る光景だ!!」

 すでに肉体を失い、霊体となった魂は驚きの声を漏らした。そしてその声を聞いてか、一人の天使が彼のもとまでやってきた。

 「どうも、国王様。私は天使のコレットというものです。あなたの魂をお迎えに来ました」

 「て、天使!?天使が目の前に現れたということは……」

 「そうですね。ご臨終です」

 「そ、そんな……私はエイ国の王だ。国民たちが、私の帰りを待っている。今すぐ戻らねば……」

 国王は大急ぎで走り出そうとした。

 「ち、ちょっと待ってください!いくら王様といえど、この世の理には従ってもらわないと……。あんまりひどいと、地獄送りになりかねませんよ!!

 「し、しかし……私には大事な使命があるのだ!!」

 「し、使命とは?」

 コレットが尋ねた。

 「今我が国は、危急存亡の秋にあるのだ。隣国の野蛮な国家、ベー国が侵略を仕掛けてきてだな。私は指導者として、国を守らねばならなかった。だというのに、私は戦争が始まる直前で病に倒れ、寝たきりになってしまった。挙句にあっけなく病死し、国の運命を見ることなく逝去…………。これでは、死んでも死に切れん!!」

 「な、なるほど……。でも、国王様。やっぱり、規則は規則なんですよ。言いつけを破ったりしたら、私は天使長からイバラのムチで、キツいオシオキを受けてしまいます」

 コレットは困りきった表情で、そう哀願した。

 「うっ……。確かに君のような可憐な娘をそんな目に合わせるのは国王のプライドが……。いや、だがしかし…………」

 やはり国王は未練を捨てきれないようである。

 「こうなったら、仕方ありません…………」

 そんな国王の様子を見かねたのか、コレットはある提案をした。

 「私の力を使って、ほんの少しだけ地上の様子を見せてあげましょう」

 「何!?それは本当か!!?」

 「はい……。私だって死者の願いは、出来るだけ尊重してあげたいんです。ただし、一度だけですよ。バレたら、あなたも私もオシオキです」

 「それで十分だ!早速頼むよ」

 「ありがとうございます。では地上の、どこの映像を見ますか?」

 「エイ国の首都……いや、もしも我が国の国民たちが、エイ国の連中に蹂躙される光景など見てしまったら、いくら何でも後味が悪い。そうだ!ベー国の首都を見せてくれ。別にこっちでも、国民どもの様子で、戦争の結末が分かるだろう!!」

 「分かりました。じゃあ、ベー国の首都の様子を見に行きましょう」

 こうして二人は一時天界から下り、ベー国まで向かった。

 「おおっ!!」

 国王は歓喜の声を上げた。

 「素晴らしい!!我が国の国旗が所せましと翻っているではないか!!我が国の優秀な軍隊は、見事悪逆非道のベー国を打ち破ったのだ。しかも町は無事で、戦乱の傷跡は見えない。無血開城に成功したのだな!!ますます素晴らしい!!!」

 「喜んでもらえて何よりです。ご満足いただけましたか?」

 コレットが声をかける。

 「うむ、これでもう心残りはない。天の上から、ゆっくりと地上をも守るとしよう。ありがとう、君のおかげだ」

 「ああ、いえ。未練もなくなったようで、何よりです。では、そろそろ行きましょうか」

 「そうだな。名残惜しいが、君に迷惑をかけるのは忍びない」

 こうして二人は、再び天へと昇っていった。



 その頃ベー国の首都では、人々が口々にこう言っていた。

 「エイ国の滅亡を記念して、エイ国の国旗を燃やすお祭りをするだなんて、王様も面白いことを思いつくもんだ。酒でも飲みながら、パーッと焼き尽くそうぜ。我が国の戦勝を祝いながら」

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