13:『Y市滞在記・2』
カントリーロード・13
『Y市滞在記・2』
準急が着いた様子で、くだんの女子高の生徒たちが改札から吐き出されてくる。
男子高校生の目線がきょろきょろ動くのがよく分かる。吐き出されてくるのは女子高生ばかりではない、男子高校生と同じ制服もちらほら。中には、その男子生徒のことを知っている者もいるようで、券売機の傍の同校生を見て仲間で一言二言いう者も居るようだが、ちょっかいは出さない。きっと人柄のいい子なんだろう、みんな好意的に無視していく。
男子生徒の反応で分かった。あの女生徒が改札から出てきた。
男子生徒は、チラッと見ただけで、券売機の上の行き先案内に視線を移す。数秒置いて歩きスマホのふりをして彼女の後を付けていく。
そのまま付けていくようなら、純情を通り越してストーカー気味だ。わたしの美意識からは外れてしまう。
彼は足早に、同様に歩きスマホの彼女を追い越して行った……ただそれだけ。
一分足らずで彼の姿は、わたしの視界からも消えてしまった。一瞬彼女が顔を上げて、彼の後姿を見たような気がしたけど、単なる偶然かもしれない。
あっけなかったけど、いいものを見た。ああいうことは、この年齢層の時期にしかできないし似合わない。
それから駅前の中型書店に入った。わたしは本の林の中に入っているのが好きだ。良心的な書店で郷土史のコーナーがある。わたしの熱エネルギーに見合った300ページあまりの新書サイズを手にとる。それから、郷土史のコーナーの数倍はあるラノベのコーナーへ。
ラノベは、表紙を見ているだけで楽しい。
でも大概は見ているだけ。ラノベは表紙に騙されることが多い。魔法やら妹がタイトルに入っている本はまず読まない。二番煎じが多いからだ。『ブタカン』というのを見つけた。定石通りミニスカートの女子高生のアップ、タイトルの不思議さで手に取る。
サブタイトルに演劇部の文字が見えてブタカンとは舞台監督の略であると分かる。演劇部を舞台にしたラノベは少ないので買うことにした。
ご贔屓の作家のは無かった。ネットで最初のところを立ち読みして買ってみようかと思ったけど、書店では見たことが無い。アマゾンなんかでは買えるけど、仕事柄しょっちゅう旅に出ているあたしは、本屋で見つけるのを楽しみにして……もう半年になる。
晩御飯は、駅近の呑み屋で、ちびりちびりやりながら、サカナで済ます。店の人やお客の会話から面白いネタを拾うため……と自分には言い訳している。
ホテルに帰って、入浴後、二冊の本を斜め読み。郷土史の方は三か所ほど付箋。帰宅後じっくり調べることに。ラノベは半分で寝落ちした。
明朝は、朝飯前に彼と彼女を待ち受ける。少しビル工事の音がうるさいが、街の活気だと思えば気にもならない。
待つこと数分、彼女がやってきた。反対側の歩道にいるので、離れて付いてくる彼の姿も目に入る。このまま何駅分か同じ車両なんだろうなあ、いや、方向は上りと下りの反対方向か……。
一瞬目まいがしたのかと思った。目の前の工事現場のクレーンがゆっくりと傾き始めた。時間にすれば四秒あるかないかなんだろうけど、まるでスローモーションのようにクレーン車が道路側に倒れてきた。
「危ない!」
反射神経のいい人が何人か、道のこちら側から向こうの歩道に向かって叫んだ。身軽な数人がダッシュして逃げた。軋むような金属音のあと、轟音をたててクレーン車は通りを遮断するようにして倒れこんできた。数人の悲鳴、そして彼女がクレーン車が押し倒したフェンスもろとも下敷きになってしまうのを見てしまった。
あまりのことに刹那の間人々の動きが止まった。そのあとは消防や警察に電話する人、倒れたクレーンの傍に寄る人、立ちすくむ人に分かれた。
数秒後、クレーンと押し倒されたフェンスの下から大量の血が流れ出してくるのが分かった。改めて悲鳴が起こる。
そのとき、男子生徒の彼が、倒れたクレーンの傍までよって腹這いになって隙間に手を伸ばした。腹這いになった制服に血が染み込み彼の半身を赤黒く染めた。
一分ほどして、彼は女生徒の白い手を引っ張り出した。腕だけか……さすがのわたしも目をつぶりかけた。
が、腕の先には女生徒の全身が付いていた。驚くことに、クレーンの下から引っ張り出されると、彼女は自分の力で立ち上がった。
「おーい、これは血じゃねえよ。クレーンがペンキの缶を潰したんだ!」
男子生徒の後ろから手を貸そうとしていたオジサンが叫んだ。
彼がなにか一言言うと、彼女はしっかり返事をした……かと思うと彼の腕の中にくずおれてしまった。
やがて救急車とパトカーがやってきた。彼女は救急車に載せられ、彼は手振りを交えてお巡りさんに説明していた。説明しなくても彼の血だらけ、いやペンキまみれの制服を見れば事情は分かるだろう。
あたしは、青春の奇跡を目に焼き付けて、昼前の電車でY市を離れた。




