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12:『Y市滞在記・1』

カントリーロード・12

『Y市滞在記・1』          



 かろうじて市と言えるような街だった。


 町が市になるためには、いくつかの条件がいる。

 原則として人口5万人以上、中心市街地の戸数が全戸数の6割以上、商工業等の都市的業態に従事する世帯人口が全人口の6割以上など。

 で、いったん市になってしまえば人口が減っても市で有り続けられる。


 だから、日本には人口5万人を割る市がいくつもある。


 わたしは、たまたまY市の南駅から北駅に乗継のために歩いていた。で、北駅に着くころには、おそらく5万人を割っているであろう、このY市が好きになって、3日ばかり滞在してみたい気になった。

 例えは悪いけど、アラサーの女性が同等に持つ倦怠感とプライドが同居したような、そして平気で一杯飲み屋で独酌できるような寂しさと可笑しさがないまぜになったような雰囲気が気に入った。


 北駅近くの、どこか投げやりそうなビジネスホテルに泊まった。


 朝起きて、窓から下を見ると、同じ制服を着た女子高生が、ほとんど同じ速度で、同じ北駅に向かい、相互には無関心で歩いてるという光景を目にした。半分以上の子が歩きスマホ。集団の中の孤独、あるいは、そう見えて、今の子独特のデジタルな連帯感。いずれにしても面白い。

 ところどころに、サラリーマンや学生らしい私服、男子高校生が混じっている。

 でも、ほぼ同じ年齢で同じ高校生である集団に意識が集中する。

 大人が相互に他人の顔で歩いているのは違和感はない。大人って孤独が基本だから。

 だけど、高校生って違うと思う。猿山の猿のように群れて、なんだか無駄にお喋りしたり、弾むように笑ったり、体をほとんど叩くように触ったり、弾けているような印象。少なくともわたしの高校時代は、そうだった。


 それが、この大人のような群衆の中の孤独はなんだろう……老成という言葉が頭に浮かぶ。ちょっといじってみたいような気になる。


 すると、一人の男子高校生が教室の端から端までくらいの距離をとって歩いているのに気付く。上から見るとよくわかる。あの男の子は前を歩いている女の子が好きなんだ。学校が違うんだろう、女の子はどうも女子高らしいセーラー服を今風にアレンジしたようなのを着ている。男の子は公立らしいブレザー姿。


 口もきいたことないんだろうな……自分の時代と重ねて、そう思った。


 朝ごはん済ませて街に出る。駅前の商店街を歩いてみる。東京に比べて人通りが少ない。休業日でもないのにシャッターを閉めた店が目立つ。でも、死んだ商店街ではない。

 商店街を外れて公園に出た。定石通り子連れの奥さんたちが目立つ。あちこちでさんざめき。

 滑り台の傍に、群れに入っていないヤンママを見つける。ひょっとしたら公園デビュー初日かもしれない。

 砂場で群れていた中から、よちよち歩きが一人転がって行ったボールを追いかけて公園デビューの母子に近づく。ベテランそうなお母さんが後からついていく。ヤンママと目線が合った様子、笑顔の交換があって、一言二言、ベテランママの誘いが良かったのか、ヤンママは子供を連れて群れの中へ、ひとしきり融和的な笑い声が起こる。どうやら、ヤンママは群れの一員になれたようだ。


 商店街でランチをやっている喫茶店を見つけて昼食。ガラス越しに大通りを見ると、泊まっているビジネスホテルが見える。商店街は大通りから一本横の通りになる。本来ならビルなんかに隠れて見えないはず。

 少し振動がして、キャタピラの響き。クレーン車が移動しているのが見えた。どうやら、元の建物を壊して新しいビルを建てている様子。

 ホテルの窓から大通りを見ていたのに気付かなかった。わたしは、どうやら風物よりは人間への興味が強いようだ。


 意を決して、地元の神社へ。


 八幡様、ご祭神は誉田別命=応神天皇。うちの街といっしょ、ちょっと嬉しくなる。

「ここも、誉田別命さんなんですね」

「ハハ、八幡神社はどこにいっても誉田別命ですよ」

 お守り売っている巫女さんに笑われる。

「ハハ、フランチャイズみたいですね」

 我ながらバカを言う。照れ隠しにお御籤「諸事無難なるも事故の障りありがち小吉」だったのでお守りを買う。

 境内でボンヤリしていると、学校の下校時であることに思いがいたる。


 我ながら、お節介だけど、あの一途な高校生のことが頭をよぎり、駅に向かう。


「いたいた」

 

 思わず声になってしまった。でも、人に聞かれた様子はない。

 あの男子高校生が、券売機の傍で所在無げに佇んでいた……。



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