部屋
――部屋に秒針の動く、規則正しい音が響く。
ベッド、机、PC、本。そして一人の少女。
齢は5か6といったところか。身長の倍以上の高さもある本棚に囲まれながら少女は、小さな手でキーボードを打ち込んでいく。
画面を睨むその目は、死んでいた。
ひたすらに知識を頭に叩き込むそれは、勉強ではなくただの作業と言える。
親は何故か、上に立つ人間だった。数々の実績を世に残し、期待される人間だった。
故に、彼女もそれを強いられた。特別を。才能を。実績を。
少女は言われるままに、特別に雇われた様々な分野の家庭教師から知識を授かり、そして才能を発揮し、実績を残した。
気づけば、その知識は誰よりも優れたものになっていた。
周りの大人からは称賛され、さすがはサマラス家だと誰もが言った。
だが、両親は違う。
母は金にしか興味がない。父も仕事だなんだと理由をつけて少女に会おうとしない。
少女が5歳を迎えた日、そこには爺やしかいなかった。
でもなぜか、悲しみや虚しさは感じなかった。
少女は画面から目を離すことなく、ただひたすらにキーボードを打ち込む。
ただ
ただひたすらに
機械の音が部屋を占領する中、少女は何を感じ、何を思っているのかは、誰にもわからない。